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アドネが冷たくそう吐き捨てて、エルーシアの側に立つ。
彼の橙色の目を見ると、ついつい先日の口づけを思い出す。彼は応急処置だと言った。けれど、エルーシアからすれば正真正銘のファーストキスで……。
「おい、エルーシア」
名前を呼ばれて、顔を上げる。アドネがエルーシアを見下ろしている。なんの感情も宿さない、冷たい目で。
「一つ提案がある」
「提案、ですか?」
「あぁ、元々騎士団で極秘に話していたことだ。……お前の今後についてだ」
彼の言葉に自然と息を呑んだ。
「お前には身内がいない。世話になれる人もいない。それすなわち、行き場がないだろう」
「……はい」
「そのうえ、持病があるときた。この状態で放り出すなど、騎士にあるまじき行為だ」
ため息をついてアドネがそう言う。なんだか責められているような気がして、俯いてしまった。
「本来ならば何処かの貴族の家にでも預けるのが妥当だろう。しかし、お前のその力を悪用されないとは限らない」
「そう、ですね……」
「というわけで、騎士の誰かがお前を娶ることになった」
「……は?」
でも、彼の言葉の意味がいまいちよく分からない。今、聞き間違いではなければ『娶る』と聞こえたような……。
「あの、聞き間違いでは無ければ、今、『娶る』と聞こえたのですが……」
おずおずと聞き返せば、アドネが眉間にさらに深いしわを刻む。まるで、何度も言わせるなとばかりだ。
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