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アドネがしっかりと口を動かして、そう告げた。彼の言葉にエルーシアは気が付く。
そうだ。彼の言う通り酷なのは自分だけじゃない。
(私と結婚することになる騎士さまも、被害者なんだわ……)
自分なんかを助けたがばかりに、こんなお荷物を押し付けられたのだ。
それに気が付くと、エルーシアはいたたまれなくなる。どういう表情をすればいいかわからなくて、俯いた。
「そんな……」
「が、これが国の上層部の決定事項である以上、覆ることはない。お前も知っているだろう。騎士団は、国の上層部の意見には逆らえない」
カタリーネはまだ言いたいことがあるようだった。だが、口を閉ざす。大方、アドネの言葉に上手い反論が浮かばないのだ。
「騎士団は国家のものだ。それを忘れるな。……たとえ、なにがあっても。国に逆らうことなんて許されない」
扉のほうに向きなおって、アドネがそう呟いた。その声は、いつもとは違うような気がしてしまう。
何処か寂しさを孕んだような。負の感情を抱いたような声だ。……心がざわめくような感覚に襲われる。
「……結婚式は挙げず、至急夫婦になることになるだろうな。……まぁ、どうでもいいが」
アドネの言葉の意味を、エルーシアは上手く理解できなかった。
けれど、後々考えれば。これはあることを指していたのだろう。
それは――エルーシアの結婚相手が、アドネである可能性が高いということ。
そうじゃないと、アドネはそんな言葉を吐き捨てなかっただろうから。
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