第1章 保護されて、結婚

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 そして、水を飲んだためか、エルーシアのお腹がまたぐぅっと鳴った。静まり返った部屋では、それがよく聞こえた。 「お腹空かれたんですね。わかりました、すぐにご用意します!」  しかし、女性はエルーシアのお腹の音を聞いても、からかってくることはなかった。それどころか、「待っていてくださいね」と声をかけて、部屋を足早に出ていく。どうやら、なにか食事を持ってきてくれるらしい。助かったと、心の底から思う。 「というか、ここは何処なの……?」  意識を失う前の出来事は、おぼろげにだが思い出せる。  確か見知らぬ男性たちが、エルーシアの住む別邸を訪れて。半ば尋問のように詰め寄られて、自分は空腹で意識を失った。いや、倒れたというほうが適切な言葉かもしれない。  ぼうっとしつつ、室内を見渡してみる。  家具は木目が活かされた木製のもの。寝台のほかには書き物が出来る机や椅子。それから鏡台。あと、小さなクローゼット。まるで本で読んだ宿屋のようだとエルーシアは思う。 「……死後の世界?」  不意に頭の中に浮かんだ可能性を、口に出してみる。  だって、そうじゃないか。激しい空腹に倒れて、目が覚めたらこんな素敵な場所にいるなんて……。  エルーシアの暮らしていた別邸は、お世辞にも管理が行き届いているとは言えなかった。掃除も滅多に行われることがなく、エルーシア以外の人間が立ち入るのは、使用人が食事を運んでくるときだけで……。  そう思いつつ、エルーシアは軽く自らの手の甲をつまんだ。……痛い。どうやら痛覚はあるようだ。 「ふむ、どういうことなのかしら……?」  こてんと首を横に倒していると、部屋の扉がノックされてすぐに開いた。そこには、先ほどの女性がいる。
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