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21. トラブル
次の日、なんとなく昨日の美晴屋でのことが気になりながらも、加恵は仕事に没頭していた。担当していた案件でトラブルが起きたのだ。
夕刻、関わっていた各チームリーダーがミーティングルームに集まった。在宅勤務の者は、ビデオ会議ツールで参加し、原因究明と解決策について話し合った。
加恵の勤務先は、クライアントの業務改善のための業務アプリケーションの設計・開発から導入までを行っている。
今回はシステム完成後、運用開始前の試験段階でトラブルが発生した。その原因解明が急がれていたが、急遽開発部門からも助っ人を呼んで、加恵のチーム総出でトラブル箇所の詳細な解析が行われ、なんとか原因は判明している。
ミーティングでは、その解決策について話し合われた。
試験段階でのトラブルはある意味想定内のことだ。これが実際に運用が始まってからのトラブル発生だとしたら、クライアントに大きな損害を与えてしまう。だから今、わかって良かった。
ただ、ここで解決に時間がかかると次の試験スケジュールにも影響が出るし、コスト面でもスケジュール面でも大きなリスクがあるのも事実だ。
各チームの対応方法についてある程度の指針が決まってお開きになり、それを自分のチームにフィードバックしてから加恵はミーティングルームを出た。
廊下でスマホを開くと、新からのメッセージが入っているという通知が常時されていた。加恵は廊下の突き当りにある展望スペースに行くと、スマホをタップしてメッセージを開く。
湾岸にあるビルの二十三階。海の向こうにレインボーブリッジやお台場が見えた。
それは約束していた日曜日のランチについての連絡だった。
正午に店の予約を入れてあるので、東京リバーテラスのリバーサイド側の広場で五分前に待ち合わせようと書かれていた。
新が昨日のことは何もなかったかのように普通にメッセージをくれたので、加恵も同じように普通に了解の旨を返信した。
(東京リバーテラスね)
加恵は楽しみになってきた。
東京リバーテラスは昨年できた、川沿いの遊歩道に面した小規模の商業施設だ。古い倉庫を改修して造られており、お洒落なセレクトショップやカフェ、レストランが入っていると評判の店だ。
ここができたお陰で、その周辺、特に川沿いにテラスがついたカフェやレストラン、ブティックなどもできて、その一角がお洒落な雰囲気になっていた。 加恵も母の日や友人への誕生日のプレゼントを買いに何度か出かけたことがある。
美容院で読む三十代向けのファッション誌などにも、『いま、リバーサイドが新しい』なんてキャッチコピーで取り上げられていて、確かに男の新が一人で入るには敷居が高そうな店が多い。
加恵が暮らす町からは、川沿いの遊歩道に出て二十分程歩けばいい。
日曜日を楽しみに、今日明日を乗り切ろう。このままでは明日は休日出勤になるだろうが、そう気持ちを切り替えた。
フロアに戻り、鉄山に報告に行こうとした加恵は固まる。
元の夫、前園健吾が鉄山と話していた。
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