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振り向いたら、サラリーマンのおじさんと目が合った。
おじさんの持っている鞄が、ちょうど俺のケツに当たってた。
なんだ、鞄か。
自意識過剰になってた。すごい恥ずかしい。
そう思って身体をずらそうとしたら、おじさんがニヤリと笑って、鞄の角をお尻の割れ目にグリグリ押し付けてくる。
……わざとかよ。
駅に着いたので、逃げるように電車を降りた。
おじさんは何事もなかったかのように、乗車したまま行ってしまった。
異世界にいた時は、セクハラなんてしょっちゅうあったけど、さすがに日本で痴漢に遭うとぞっとする。
しかも困った事に、異世界にトリップする以前よりはるかに痴漢に遭う回数が増えた。
それに身体が触られる事に対して過剰反応をおこす。
やっぱりアニキのせいだろうか。
道の駅でアニキに痴漢をされた後、トイレに連れ込まれて散々苛められた事を思い出してしまうんだ。
今でもヤンキーとかファッションでタトゥーを入れてる男を見ると、アニキの異世界文字の入れ墨を思い出して鼓動が速くなる。アニキの事は嫌いにはなれないけど。
駅を出て、康哉のマンションまでは歩く事にした。
康哉は親がお金持ちだからか、けっこういいマンションに住んでる。
すくなくとも俺のボロアパートとは家賃が全然違う。
それなのに遊ぶときは大体康哉が俺のアパートにばかりやって来るから、俺はあまり康哉の部屋に行った事がない。
マンションの敷地内で康哉の車を探したけど、見当たらなかった。
もしかして出かけてるのかな。
俺は仕方なく近くのカフェで時間をつぶす事にした。
メールをして、一時間くらい待っても何も返事が来なかったら帰ろう。
カフェは喫茶店と呼んだ方が似合う落ち着いた雰囲気で、定番の漫画とか主婦が読むような芸能雑誌が置いてある。
サンドイッチを注文し、窓の外を眺めた。
電波状態が悪くてほとんど圏外だった異世界の方が、康哉と連絡とれてた気がするな。
そんな事を考えながら、運ばれてきたミックスサンドを頬ばっていると、電話が鳴った。康哉だ、と着信の文字を見てすぐに電話に出た。
『修平、今どこだ?』
久しぶりに聞いた声に、なんだかドキドキする。異世界の王都で再会した時の事を思い出す。
「康哉んちの近くの喫茶店。ええと」
『分かった。すぐに行く』
切れた。話が早いな。
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