ずっと親友だと思っていたのに

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部屋は赤い残光でほのかに輝いている。 光はすぐに小さくなり、瞬きをする間に消えてなくなった。 それでも光が消える前に見えたのは、見覚えのある風景だった。 人気の無い古い家屋の一室。 二人がけ用のソファーがぽつんと置かれた部屋だ。 一週間前に、康哉と二人で肝試しをしたあの廃屋にいた。 すぐ傍に人の気配を感じる。 俺は感覚がなくなるほど強く、幼なじみの手を握りしめていた。 ゆっくりと指を解き、康哉の身体がすぐ傍にあることを確かめる。 「康哉……」 連れてきてしまった。 賭に負けたのに、康哉の意思を無視して。 魔法陣が光ったあの瞬間、自分のエゴみたいな感情に突き動かされて、康哉の手を掴んだ。 倒れている康哉に這い寄って、顔を覗き込む。 康哉は目を閉じていた。 眠っているんだろうか。 一週間前までは何も気にする事無く話しかけられたのに、今では俺と康哉の間に距離があるような気がした。 すぐ傍にいるのに、とても遠い。 (俺に二度も言わせるな。お前は残酷なんだよ) ……お前は残酷。 この一言で、俺がどれだけ康哉を傷つけていたか思い知った。 いや、まだ足りないのかも。 「……康哉?大丈夫か?」 て 康哉は俺の声に身体をふるわせ、ゆっくりと目を開いた。 「……修平?」 顔を上げて、ここが廃屋である事を確かめる。 「ごめん。ごめん康哉……俺、約束を破った」 康哉は俺が掴んでいた腕を見つめた。 「康哉はあっちに残りたがっていたのに……ごめ」 「修平」 康哉は身体を起こすと、しばらく俺の顔を見て、ポケットから何かを取り出した。 車の鍵だ。 「帰るか」 康哉はいつもと変わらない表情でそう言った。 *** 何だろうこの気まずさは。 廃屋を出る俺の手を、康哉はずっと繋いでいてくれた。 車は一週間前に停めた場所に変わらず存在していた。 助手席に乗り込むと、康哉が手を伸ばしてきて、何故かびくりと身体をかたくした俺に、康哉は弱々しく笑った。 「熱があるか気になっただけだ。病院行くか?」 「いや……いい。康哉は?疲れてないか?少し眠ってからでも」 「大丈夫だ。修平、怖いんだろ?」 康哉はそう言って車を発進させた。 怖いって、廃屋の事だろうか。すっかり忘れていた。
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