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肉や魚のメイン料理に加えて、俺の好きなだし巻き卵とか、名前は知らないけど好きな煮物とか揃ってる。
「さすが康哉様!結婚してくれ!」
ノリでそう言うと、康哉は真顔で俺を見た。
「あ、いや……あの。今のはノリで」
うわ、なんか気まずくなった。
仲直りはしたけど、今のこの関係をなんと呼んでいいのか俺には全然分からない。
幼なじみでセフレ?
いや、親友以上恋人未満とか?
それとも一晩限りの関係なんだろうか。
「康哉?」
「食べようか」
「ああ、うん」
料理は本当に美味しくて、昼間にハンバーガーしか食べてなかったからいくらでもお腹に入った。そして本当に高校生の頃食べていた弁当の味がした。
「美味い……」
「だろ」
「いや、本当に。弁当と同じ味がする」
鼻の奥がつんとした。
母さんが亡くなって、何もする気が起きなかった時の辛い気持ちを思い出した。
何かを食べて泣きそうになるなんて、ヴァネッサさんの家以来だ。
でも恥ずかしいから下を向いてごまかす。
「修平……」
「ありがとう、康哉」
「泣くな」
目をごしごし擦って、美味しい料理を口にした。
食後は康哉がコーヒーをいれてくれた。
俺には砂糖とミルク入り、自分はブラックだ。
食後の片づけはさすがに手伝ったけど、康哉は料理を作りながら片づけを同時にするタイプらしく、洗い物は食器しか無かった。
明日は大学だ。
康哉も忙しいだろうし、そろそろ帰るんだろうか。
「あのさ、また料理作ってくれよ」
「分かった」
康哉の了解が取れてほっとした。本当はできるだけ長くいて欲しいけど、そろそろ帰る時間かな。
次いつ会う?の一言が言えない。俺こんなにシャイだったかな。
テレビを見ながら他愛ない会話をして、会話がとぎれないように気をつけて……でもやっぱり、会話が途切れる瞬間はある。
こんな不安定な関係ならなおさらだ。
「修平……」
「康哉」
同時に口を開いて、同時に口ごもる。
「そろそろ帰るか?えっと、明日早いだろ?」
康哉が何も言わないので俺が言葉を続けた。
「康哉?」
「修平、腰痛くないか?」
「え?大丈夫だけど」
「そうか。なら、明日の授業は休むよ」
「ええ?何で?」
優等生の康哉が?
その言葉に康哉は微笑みを返した。
「泊まって帰りたいから」
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