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真っ黒オバケやアルマと遭遇した事を考えれば、廃屋は平和な一軒家に思える。
いや、やっぱり少し怖いかな。
「康哉……ありがとう」
康哉だって疲れているはずなのに、傍目には全然そんな風に見えない。
異世界の格好で車を運転する康哉をいつもなら絶対茶化してるけど、車内には重苦しい沈黙がおりていて、何も言える雰囲気じゃなかった。
気まずいと思いながらも車の振動が心地よくて、俺はあっさりと眠りに落ちてしまった。
***
「修平」
頬を撫でられる感覚、耳元で囁く声に身体が反応した。
康哉だ。
心地いい振動はいつの間にか止まってる。アパートに着いたのかな、起きないと、と思うのになかなか目が開かない。
「お前、鍵は?」
「んー……」
がさがさとポケットを探される気配がする。体温を感じて無意識に腕を回すと、康哉の身体がびくりとした。
「修平……無防備すぎ」
「眠い」
「やっぱり熱があるんだろ?」
「そうかも……熱い」
頬を撫でていた手が額に移動する。康哉の手はひんやりして気持ちいい。
「やっぱり病院に」
「……嫌だ。寝れば治るから」
「ひどくなったら医者を呼ぶからな」
康哉の言葉にこくこくと頷き、ゆっくり目を開けると、そこは俺のアパートの前だった。
「ほら、あと少しだ」
康哉に支えてもらいながら階段を上がり、鍵を開ける。
俺は靴さえ脱げばベッドに這って行って眠れるんだけど、康哉はそういうタイプじゃなかった。
どんな日でも入眠前の儀式、つまり顔を洗って着がえて歯を磨き消灯、をしないと寝ない奴らしい。
俺がベッドにダイブしたのを横目で見ながら、荷物を部屋に運び、冷蔵庫を開けて中を確認し、ミネラルウォーターと体温計とタオルを持って戻って来た。
「修平、ほら熱はかるぞ。水飲むか?着替えは?」
お前は俺の母親か。
相変わらず気が利く奴だ。
「水飲む。熱はいい。どうせ微熱だし……着替えも面倒くさい。寝る」
康哉はため息をついた。
「分かった。傍にいるから寝ろ」
そう言うと、腕を組んでベッド脇の椅子に座る。マントはいつの間にか外していたけど、康哉は王様みたいに見えた。
疲れてる王様。
偉そうに見えるけどいつも平民(俺)の事を考えている。
「康哉……」
「何だ?」
「歯ブラシとか、俺の使っていいから。風呂も入っていい。ベッドも」
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