ずっと親友だと思っていたのに

4/30

11人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
康哉は俺のアパートに遊びに来たことはあるけど、一度も泊まっていった事はない。 俺が泊まっていけって言っても必ず断られていた。他人と寝るのは落ち着かないとか、潔癖性だとか言って。 だから彼女と続かないと話に聞いた事がある。 でも、この日の康哉は俺の誘いを断らなかった。 「何言ってるんだ?」 「疲れてるだろ?ベッドで寝ろよ」 「……お前、俺の気持ち知ってて誘ってんのか?」 「俺の知ってる康哉は、病人には手を出さない」 康哉は何とも言えない顔をした。 「添い寝してくれ。誰かに傍にいて欲しい」 「……誰か?」 「親友に」 康哉は一つしか無い俺のベッドに遠慮がちに入ってきた。 「……異世界から連れて帰ってきて、ごめんな」 眠気と戦いながらそれだけ言うと、康哉は俺の手を取って、じっと見つめた。 「……康哉?」 突然ぐいと引き寄せられて、康哉の唇が俺の頬を掠める。頬と、それから額にキスされたんだと気づいた。 そのまま抱き寄せられて、康哉の身体にしがみつく形になる。 ドクドクいう康哉と自分の心音を聞いていると 「王子様じゃなくて残念だな」 という康哉の声がした。 *** 夢を見ていた。 巨大な植物の生えた森を逃げ回っている夢。 姿の見えない土蛇から逃げ回っていると、ぬかるみに足をとられて沼に落ちてしまう。 花カブトの沼だと気づいて這い上がろうともがくと、岸辺に誰かが立っているのが見えた。 頭に角を生やした半獣、ラウルだ。 「シュウヘイだいじょぶ?」 ……ラウル。 ラウルに手を引っ張られて沼から這い上がる。お礼を言おうとしたら、顔をペロペロ舐められた。 「シュウヘイいつ帰ってくる?ラウル待ってる。はやくなかよししたい」 『ごめん、もう帰れないんだ。ラウルとの約束は守れない……』 ラウル、半獣の村でずっと待ってるんだろうか。 俺の帰りを信じて。俺は半獣でもラウルの仲間でもないのに。 もっときちんと説明すれば良かった。ラウルに酷い事をしてしまった。 「そうですよ。ミサキ様は酷い人です」 別の声がして、驚いて振り向くと、石工の街にいるはずのリックがいた。 「僕の気持ちを知っていたのに、行ってしまった。僕はあなたをどうやって忘れたらいいんですか?」 リックが悲しそうな顔で言う。 『……ごめん』
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加