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康哉は俺のアパートに遊びに来たことはあるけど、一度も泊まっていった事はない。
俺が泊まっていけって言っても必ず断られていた。他人と寝るのは落ち着かないとか、潔癖性だとか言って。
だから彼女と続かないと話に聞いた事がある。
でも、この日の康哉は俺の誘いを断らなかった。
「何言ってるんだ?」
「疲れてるだろ?ベッドで寝ろよ」
「……お前、俺の気持ち知ってて誘ってんのか?」
「俺の知ってる康哉は、病人には手を出さない」
康哉は何とも言えない顔をした。
「添い寝してくれ。誰かに傍にいて欲しい」
「……誰か?」
「親友に」
康哉は一つしか無い俺のベッドに遠慮がちに入ってきた。
「……異世界から連れて帰ってきて、ごめんな」
眠気と戦いながらそれだけ言うと、康哉は俺の手を取って、じっと見つめた。
「……康哉?」
突然ぐいと引き寄せられて、康哉の唇が俺の頬を掠める。頬と、それから額にキスされたんだと気づいた。
そのまま抱き寄せられて、康哉の身体にしがみつく形になる。
ドクドクいう康哉と自分の心音を聞いていると
「王子様じゃなくて残念だな」
という康哉の声がした。
***
夢を見ていた。
巨大な植物の生えた森を逃げ回っている夢。
姿の見えない土蛇から逃げ回っていると、ぬかるみに足をとられて沼に落ちてしまう。
花カブトの沼だと気づいて這い上がろうともがくと、岸辺に誰かが立っているのが見えた。
頭に角を生やした半獣、ラウルだ。
「シュウヘイだいじょぶ?」
……ラウル。
ラウルに手を引っ張られて沼から這い上がる。お礼を言おうとしたら、顔をペロペロ舐められた。
「シュウヘイいつ帰ってくる?ラウル待ってる。はやくなかよししたい」
『ごめん、もう帰れないんだ。ラウルとの約束は守れない……』
ラウル、半獣の村でずっと待ってるんだろうか。
俺の帰りを信じて。俺は半獣でもラウルの仲間でもないのに。
もっときちんと説明すれば良かった。ラウルに酷い事をしてしまった。
「そうですよ。ミサキ様は酷い人です」
別の声がして、驚いて振り向くと、石工の街にいるはずのリックがいた。
「僕の気持ちを知っていたのに、行ってしまった。僕はあなたをどうやって忘れたらいいんですか?」
リックが悲しそうな顔で言う。
『……ごめん』
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