12話

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「ねぇ、この学園の誰とも付き合いたくないって言ってるけど、ひょっとして別の学園に好きな人がいるの?」 「まさか。そんなはずないじゃない」 腕組みして答える。 「だ、だったら……僕じゃ駄目なの? これでも僕は……」 「女の子に人気があるって言いたいんでしょう? でもそれが何か?」 だけど、そんなことは今の私には全く関係ないことだ。 「何って……それじゃ、どうして駄目なのか教えてよ」 必死に尋ねてくるサイラス。俯いてプルプル震えている姿は可愛らしいけれども……。私は『クールビューティ』。決して感情で流されたりはしない。 「なら、はっきり言ってあげる。私はねぇ! あなた達みたいなお子ちゃまは嫌なのよ!!」 ビシッとサイラスを指さした。 「お、お子ちゃまって……だって僕たち5歳だよ?」 顔を真っ赤にさせて訴えるサイラスは今にも泣きそうになっている。 「ええ、そうよ。私も5歳、あなたも5歳。だけどねぇ、私は大人の男性がいいの! チンチクリンの子供には興味ないのよ!」 「チ、チンチクリンて……う、うわあぁああんっ! ステファニーのばかーっ!!」 とうとう、サイラスは我慢できずに泣きながら走り去って行った。 きっとあんなに泣けば今日の昼休みは泣きつかれて、お昼寝タイムに入るだろう。 「全く。子供のくせに、この私と付き合おうなんて……10年、いえ15年は早いわね」 バサッと長い髪の毛を後ろに払う。 「え~と……確か、今日の予定はお遊戯に、園庭遊び‥‥‥お昼寝タイムの後は図工だったわね。まぁ図工ぐらいは出てもいいかしら……だったら、行く先は決まっているわね」 私は立ち上がると星組の教室には寄らず、図書室へ足を向けた。 **** 「あら、いらっしゃい。ステファニーさん。またクラスを抜け出してきたのね?」 司書の女性がカウンターから笑顔で私を迎える。この人だけが私を子ども扱いしないでくれる。 だから私は彼女に親近感を抱いていた。 「おはようございます。はい、またしても抜け出してきました。お勧めの恋愛小説はありますか?」 「ええ、勿論です。何しろステファニーさんの為だけに用意した本ですから」 ニコリと笑みを浮かべ、女性司書は本をカウンターに置いた。 「この本はお勧めですよ。中々濃厚な恋愛が描かれていますから」 「本当ですか!? ありがとうございます!」 喜んで本を受け取ると、私は早速いつもの席に座って読書を始めた。 「…‥はぁ~……やっぱり恋愛小説って最高よね……前世を思い出すわ……」 私の前世は25歳の日本人女性で、フリーのイラストレーターだった。仕事と恋人に恵まれ、充実した日々を過ごしていたそんなある日。 大きな仕事を任され、何日も寝ないで必死にイラストを制作し……納品したその日の内に倒れてしまい、気が付いたらこの世界に生まれていたのだ。 前世の記憶が鮮明に残っている私が、普通でいられるはずがない。 精神年齢が成人に達しているのに、幼稚な子供達と混ざって幼稚な授業? を受け入れられるはずが無い。 そこで図書室に逃げ込み、先生用の図書コーナーで大人の恋愛小説を読んでいた。 その現場を司書の女性……エリザベスさんに見つかってしまい、今に至る関係になったのだ。 「ステファニーさん、お茶をどうぞ」 読書をしていると、エリザベスさんが紅茶を注がれたティーカップを置いてくれた。 「ありがとうございます」 笑顔で返事をするとエリザベスさんがニコリと笑った。 「この間は痴話喧嘩に巻き込まれて大変でしたね?」 「本当に大変でしたよ。全く……5歳児のくせに、最近の子供はませているのだから」 紅茶を飲むとため息をつく。 「でも、あの男の子とは仲良く遊んでいたじゃないですか?」 「え!? な、何故それを!?」 「実は私もあの日、恋人と動物園に行っていたのですよ。中々お似合いのカップルでしたわ。皆、あなた達を見て微笑ましく笑っていましたから」 「まぁ、彼は普通の5歳児よりは大人びているかもしれませんけど……所詮、私の相手ではありませんから」 ため息をつくと、司書の女性は更に笑顔になった。 「あら? でも今は駄目でも、将来はどうなるか分かりませんよ? 何せ、この学園は大学まで一貫校ですから」 「それは無いですよ。だって、私先程こっぴどく彼を振りましたから。今の私はおままごとの恋愛より、本の中の恋愛の方が余程興味ありますからね」 そして再び本に目を通した。 この時の私はまだ何も知らない。 15年後……輝くような美青年になったサイラスといずれ結婚するという事実を―― <完>
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