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「梓も早く食べちゃいなさい」
「はーい」
それでも、いつもの日常と変わりない日々を送っている。
けれど確かに、私の中では少しずつ、ゆっくりと。
蒼に対しての気持ちは、変化の色を見せ始めていた。
* * *
「雨が降りそうな曇り空ね」
大学から家まであと少し。
パンプスを履いた足をカツコツと鳴らしながら、私は帰り路を急ぐ。
頭上を仰ぎ見れば、どんよりとした厚い暗雲が空を覆い、今にも泣き出しそうな灰色だった。
「家まではあとちょっとなのに……」
曲がり角を曲がった瞬間。
「──あ、姉貴!」
「え?」
背後から聞き覚えのある声がして、振り向く。
そこには紺のブレザーに灰色のズボンという制服を身に纏った蒼が、軽く手を上げて立っていた。
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