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駅前に行くと、思った通り、ティッシュやビラ配りのバイトをしている連中が見えた。
そちらへ近づき、俺自身は何も受け取らずに横を過ぎる。その際、配っている奴の反応をそっと窺いながら。
三ヶ月程前、俺も、ティッシュ配りのバイトをした。
業者から渡された大量のティッシュを、一日かけて町行く人達に配るだけのバイト。
ティッシュなら使い道があるから、ビラよりは受け取ってもらえる確率が高く、結構いいペースで配ることができていた。
完全に流れ作業状態で、前を通りかかった人にティッシュを差し出す。そうしたら、一人の男が俺の前で足を止めたんだ。
俺をやたらと嬉しそうな目で見てくる男。
気持ちが悪いなと思ったが、無料のティッシュが欲しいという人もいるので、追い払うためにすぐさま手渡した。でも差し出したティッシュは相手の手に渡らなかった。
ティッシュがすり抜けたその体。しまったと思った時にはもう遅く、あれ以来、あの男は俺の少し後ろにずっとつきまとっている。
それまで霊体験なんてしたことがなかったから、まさか自分に幽霊が見えて、そいつにティッシュを渡そうとし、そのまま憑りつかれるなんて思ってもみなかった。
嬉しそうだったのは、幽霊の俺を認識してくれる相手に出会えたためか。
あれから三ヶ月。ずっと男は俺に憑りついたままだ。それがしんどくて、今日も俺は駅前にやって来た。
最近は、暇ができたら来るようにしている駅前。こをプラプラと歩き、ティッシュやビラを配っている奴の側を通り過ぎる。
ああ、今日もダメか。
そう思いかけた時、一人のティッシュ配りが、俺に私損ねたティッシュをすぐさま後ろに差し出した。
俺の後ろには誰もいない。正確には『生きた人間』は誰もいない。そこにいるのは…。
すかさずその場を離れ、背後を振り返る。そんな俺の目に移ったのは、あの日、俺が体験したままの光景だった。
俺に憑りついていた男がティッシュ配りの前にたたずんでいる。もうこちらは見ない。その視線は自分を認識してくれた目の前に相手に釘付けだ。
やっとあいつを引き離すことができた。
ティッシュやビラを配っている奴の中には、あの日の俺のように、あいつが見える奴がいるかもしれない。そいつにあの男の意識を向ければ、男は俺から離れてくれるかもしれない。
そんな、賭けのような気持ちで駅前に通い続けたかいがあった。
これでようやく、俺は元通りの生活を送ることができるよ。
ああちなみに、もうティッシュやビラを配るバイトは決してしない。それだけは絶対だ。
ティッシュ配り…完
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