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「任せろ、ちゃんとやる」
目の前で服を脱ぎ、徹は俺が貼った湿布を剥がした。直が後ろではしゃいでいるのが見える。
「……近くで、飯食ってるから」
そう言ってしまった。甘えてしまった。やっと一人になれたと思ってしまった。やっと少しの休息が取れた、と。
廊下に座って自分の作ったオムライスを食べながら、ずっと不安な気持ちに駆られていた。見ず知らずの、今日知り合ったばかりの青年と自分の息子が一緒に風呂に入っている。もし、息子が溺れてしまったら……、存在が消えてしまったらどうしよう……。だが、その時は徹のことを責めることは出来ない。自分が悪いのだ。怠けたのだから。
「パパ!」
いつの間にか考え込んでいたらしい。突然、声が聞こえた。
直だ。直が風呂から無事に戻ってきた。どのくらい時間が経ったか分からないが、息子はちゃんと戻ってきた。
「パパ、てちゅかわいいね」
そう言う直をバスタオルを広げて迎え入れてやる。徹は一人、今から髪を洗い始めたようだ。ちゃんと言ったことを守ってくれたのだ。
「徹が?」
「うん!」
「可愛いかな?」
一体、徹は直に何をして、何を話してくれたのだろうか。また猫パンチと言ったのだろうか? また、あの顔で笑ったのだろうか?
――確かに、可愛いかもしれないな。
「パパ、てちゅ、かう?」
「徹、飼えるかな?」
飼わせてくれるだろうか?
そんなことを考えている自分に苦笑いする。
「なお、おねがいしゅる!」
「え?」
急に直がバスタオルから飛び出した。
「てちゅ! てちゅ!」
裸のまま風呂場の扉を叩く。小さな手がバンバンと曇りガラスを叩く様は土砂降りの雨が窓を叩くのと少し似ている気がした。
「んだよ?」
突然の嵐の襲来に、髪から水を滴らせた徹が扉の隙間から顔を出した。その表情は不機嫌というより、困惑という感じだった。
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