雨時の黒猫

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「てちゅ、けっこんちて! パパとけっこんちて!」 「へ?」  息子の衝撃的な発言に困惑する。 「おいおい直、どこで覚えた? そんな言葉。じゃなくて、パパとは……無理、じゃないか?」  直は結婚という言葉の意味を理解していないに違いない。徹の眉間に皺が寄ったのが見えた。 「す、すまない。邪魔したな、ゆっくり風呂に入ってくれ」  また風呂場に入っていきそうな勢いの息子を抱き上げて、俺はリビングに戻った。  直に服を着せて、寝室で寝かしつける。トントンと身体を優しく叩くと直はすぐに寝息を立て始めた。毎日、この顔を見るとホッとする。  暫くして、寝室を離れるとリビングでソファに座る徹の後ろ姿が見えた。テレビを見るでもなく、ただ座っている。 「徹、ありがとな」  人一人が入るくらいの隙間を空けて隣に座ると徹は静かに口を開いた。 「俺が」 「ん?」 「俺が……ありが……」  そこで言葉は無くなってしまった。照れているのか目を合わせてくれない。 「あんた……、どうして、俺を助けた?」  話題を変えるためか、俺のほうを見ずに徹は静かに言った。 「直がお前のことを捨て猫だと思ってて、気付いたら拾ってた」  俺が一人だったら、きっと気付けなかった。 「まあ、間違いでもない……」 「え?」  ぼそりと呟かれた言葉に聞き返す。 「なんでもない」  徹の横顔がこれ以上は何も言わないと語っていた。 「……そろそろ寝るか。川の字だけど良いか?」 「別になんでも」  てっきりソファを選ぶかと思ったが、徹は大人しく直の隣に横になった。
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