幸せを願って

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 私は記憶を失くしたせいで、漠然(ばくぜん)とした不安とか焦りとか……そんなものは感じてたけど。  でも……記憶を失くしたお陰で、桜さんのご両親を、自分の両親だって思い込めた。  だから、優しくもしてもらえたし、大切に育ててもらえた。  晃人のことだって、幼なじみだとずっと思ってて……。  たまにはケンカになったりもしたけど、まあまあ、仲良くやってたし……。  あの世界にいて、特に困ることなんてなかった。  本当に、あの世界のことが好きだった。好きになれた。  私は記憶を失くしたからこそ、今まで幸せでいられたんだ。  記憶を失くしたお陰で……ずっと楽しく、過ごしていられたんだ。  なのに桜さんは……記憶を失くさなかったせいで、ずっと独りぼっちで……。  記憶があったかなかったかで、ここまで大きな差が生まれてしまうなんて――。  なんだか、桜さんに申し訳なくて……。  私は祈るような気持ちでつぶやいた。 「桜さんは……元の世界に戻ったら、きっと、幸せになれるよね……?」  桜さんには、絶対幸せになってほしい。  今まで辛くて、大変だった分、誰よりも幸せになってほしいから……。 「ああ、なれるさ。そのためにオレは……桜を、向こうの世界に戻したんだから」  神様はやっぱり寂しそうに――でも、今度は微かに笑いながら、こくりとうなずいた。 「うん。そうだよね。幸せになれるよね」  これからはお父さ――ううん、ご両親も、晃人もいるんだもんね。  ……あ。  そー言えば晃人、桜さんが初恋だったんだっけ……。  ふふっ。  今頃、また性格変わったーって、驚いてるかも知れないな。  好きだった頃の性格――元の桜さんに戻ったーって、喜んでるかも……。  そのうち、昔の恋心が復活しちゃったりして……ね。  ……うん。  二人が上手く行ったら、それはそれで……。  ――って、あれ……?  ……あ……。  あー……そっか。ダメだ、晃人……。  桜さんは、王子のことが好きなんだよね。すっかり忘れてた。  晃人がまた、桜さんを好きになったとしても……王子がライバルってなると、振り向かせるのは至難(しなん)(わざ)かもなぁ……。
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