君こそが

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「ねえ、セバスチャン。セバスチャンにそんなこと気にされちゃったら、私はどーしたらいいの? 私なんて、セバスチャンや国王様――自分の父親のことも、この国で生まれたってことすら、ぜーんぶ、綺麗さっぱり忘れちゃってるんだよ? その方がよっぽど酷くない?」 「――ピッ!?……姫様、そのような……。酷いなどと、そのようなことをお考えになられてはなりません! なりませんぞ! あちらの世界に飛ばされたました時、姫様はまだ幼子だったのでございますから……。ご自分の身を守るため、本能のようなものが働いたのでございましょう。ですから――」 「うん。セバスチャンがそう言ってくれるなら、私も気にしないようにする。だから……セバスチャンも、もう自分を責めないで?」 「ピピ――ッ!……ひ……姫様……」  セバスチャンはそっと身体を離し、しばらく瞳を潤ませつつ、私をじいっと見つめていた。  ふいに、こっくりとうなずくと。 「かしこまりました。どんなに悔やもうと、過ぎし日の失態は、今更どうすることもかないません。うじうじと己を責め続けて過ごしておりましても、姫様にお気を遣わせてしまうだけですな」 「うん、そーだよ。セバスチャンが落ち込んでたら、私、いつまでも気になっちゃうよ。……だから、まあ……お互い様ってことで。ね? それでいいよね、セバスチャン?」 「……はい」  セバスチャンと私は顔を見合わせ、にっこりと微笑み合った。(顔は鳥そのものなのに、ちゃんと〝笑ってる〟ってわかるんだから、すごいよね) 「フフッ。よかった。……記憶はまだ、全然戻らないけど……。でも、またこうしてセバスチャンに会えて、ホントに嬉しいよ」 「姫様……!」  ぶわわっと、セバスチャンの涙腺(るいせん)決壊(けっかい)する。  あーもーっ!  キリがない! 「泣かないでってば、セバスチャン! もういい歳なんでしょ? 子供みたいにメソメソ泣いてたら、みっともないよ?」 「ろ――、老人は涙もろい生き物でございますゆえ……。お見逃し下さいませ。……う、うぅ……っ」  ……ダメだこりゃ。  全然泣き止む気配がない。  思わず横を向いてため息をつくと。  視界の端を、王子の姿がよぎった。
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