忠誠の誓い

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「あの光を見た瞬間、何故か胸騒ぎがしました。姫様の身に、何か起きたのではないかと……。私のいない間に、姫様に危険が及んでいるのでは、と」 「カイルさん……」 「そう思ったら、走り出していました。ルドウィンへと続く道ではなく、ザックスへと戻る道を」  カイルさんはそう言うと、自嘲(じちょう)するように薄く笑った。 「おかしいですよね。何の根拠があるわけでもないのに……。ただ胸騒ぎがしたというだけで、私はあのお方の捜索よりも、姫様の元へと戻ることを優先させた。――いえ。実際は、考える余裕なんてなかった。どちらを取るかなんて選択肢は、浮かんでも来ませんでした。その瞬間は、『戻らなければ』という感情だけが、私の心を占めていたんです」  まっすぐに私へと向けられる、カイルさんの真剣な眼差し。  その瞳に魅入られたように、私はしばらく、身動き一つ出来なかった。 「姫様。あのお方がご自分のいるべき世界へ、無事にお戻りになられたのならば……私のあのお方に対する役目は、すでに完了しています。これ以上、姫様のお側にいることは……許されないのかもしれません」  ……え?  側にいることは許されないって、そんな……!  『辞めないで!』  ――思わずそう言いそうになったところを、ぐっと堪えた。  辞める辞めないは、カイルさんの自由。私が口出し出来ることじゃない。  それはわかってる。わかってるけど……。 「姫様は、あのお方とは違う。お姿はこんなにも似ていらっしゃるのに……中身は全然違う。それなのに――」  カイルさんの手が、ゆっくりと私の顔に近付く。  私は戸惑って、カイルさんを見つめることしか出来なかったんだけど……その手が頬に触れそうになった手前で、ぴたりと止まった。 「……カイル、さん?」  私が呼び掛けると、カイルさんはハッとしたように手を引っ込め、僅かに赤く染まった顔を横に向けた。 「申し訳ございません。……俺は何をやってるんだ――?」  最初の言葉は私に。後の言葉は、自分に対して言ってるみたいだった。
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