生涯、ただ一人

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「まあ、どんな理由だろうと、カイルさんが私を選んでくれたのは光栄ではあるんだけど……。でも、私を主君にってゆーのは、もうちょっと落ち着いて……色々な面からよ~っく考えてみた方がいいんじゃないかなぁ……?」 「――っ! しかし姫さ――」  更に言葉を重ねようとするカイルさんに、私は両手を前に出し、『待った』の意思を示した。 「うん、わかってる! カイルさんがいい加減な気持ちで私を選んだんじゃないってことは、よーっくわかってる。わかってるつもり。カイルさんは、そんな無責任な人じゃない。――でもね。私はまだ、この国の姫としての教育とか受けてないし、記憶だって戻ってないし、そもそも、この国の常識だって全然わかってないじゃない? だから、これから勉強しなきゃいけないことって、きっと、気が遠くなりそうなくらいあるんだろうし……。本音言っちゃうと、自分のことだけでいっぱいいっぱいなの。そんな酸欠一歩手前って状態の時に、カイルさんの主君に……とか言われても、その……これ以上抱えきれないってゆーか……」 「……姫様……」 「あっ、でもね! 忠誠の誓いとか儀式とか、そーゆー大袈裟なのが困るって言ってるだけで、カイルさんには出来ればこれからも、護衛として側にいて欲しい……とは思ってるんだよ? 今更、他の人に頼むとかって考えられないし。あの……カイルさんさえよければ、だけど……」  捨てられた子犬みたいな目で見上げられ、私は慌てて言い足した。  カイルさんはしばらくの間うつむいて、何か考えてるみたいだったけど、ふいに顔を上げ、 「承知いたしました。姫様を困らせてしまい、申し訳ございませんでした。見習いふぜいが無理を申し上げ……誠にお恥ずかしい限りで……」  などと言い、また下を向いてしまった。  最後の方は消え入りそうな声で……聞いてる方が、なんだか切なくなっちゃうくらいで……。 「あっ、頭なんか下げなくていいからっ! カイルさんがどうこうって話じゃなくて、私がまだまだ余裕なくて頼りないから、もうちょっと待ってって言ってるだけで。カイルさんの気持ちはホントに嬉しかったし!――ねっ? だからもう、気にしないで顔上げてっ?」  下を向いたまま固まっちゃってるカイルさんに、次は何て言おう? どう言えば私の気持ち、ちゃんと伝えられるだろう? って、ひたすらぐるぐる考えてた。  ああ……どーすればいーんだろう?  カイルさん、全然上向いてくれないし。  こんな時、いったいどーすれば……。
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