ドキドキの要因

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 音のする方へ目を向けると、王子が黒馬のアルフレドを走らせて、こっちに向かって来るところだった。 「王子!――ちょうどよかった。カイルさんが大変なのっ!」  王子はアルフレドの手綱を引くと、大きくうなずいた。 「セバスから話は聞いている。もう大丈夫だ。私が彼をアルフレドに乗せて、城へ戻ろう。君はここで待っていてくれ。彼を送り届けたら、すぐ迎えに来る」 「私は一人でも大丈夫です! だから早く、カイルさんをっ!」  早口で告げると、サッと王子の顔色が変わった。  ……ように見えたんだけど……。  私が一瞬ひるんだ隙に、王子は素早く下に降り、私の腕から自分の腕へとカイルさんを移して、軽々と抱き上げた。  ――すごい!  自分とそれほど変わらない背丈の男性を、ああも簡単に!  感心して見守る私をよそに、王子はカイルさんを馬の背に横向きにうつ伏せると、また馬上の人になった。 「じきにセバスも追いつくだろう。それまで、ここでじっとしているんだ。――いいね?」  厳しい顔で言いつけられ、素直にうなずくと。  王子はようやく、いくらか(やわ)らいだ表情を見せてくれて、私はホッと息をつく。  彼は『はっ!』という掛け声を発し、アルフレドと共に颯爽(さっそう)と駆けて行った。
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