王子の熱情

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王子の熱情

 なんだろう……?  これまでにも何度か、抱き締められたり、キザなことや、意味深なこと言われたりってことはあったのに……。  今日の王子は……なんだか、今までとちょっと違う。  どこか寂しそうで……心細そうで。  不用意に拒絶しちゃいけないって気にさせるってゆーか……。 「君といると、今まで知らなかった自分にたくさん気付かされる。君が他の男の話をするだけで、落ち着かない気持ちになったり、君の視線が他の男に向けられるだけで、胸が締め付けられるように傷んだり。君が他の男に笑い掛けただけで、たとえようのない焦燥感(しょうそうかん)(さいな)まれたり。……君に出会ってから、私の心はかき乱されてばかりだ。一時(いっとき)たりとも、()いでくれはしない。終始騒ぎ、焦り、傷付き、惑い……嫉妬に支配されそうになる。……リア。君を誰にも渡したくない。私だけのものにしたい。永遠に私を――私だけを見ていて欲しい。……お願いだ。どこにも――もうどこにも行かないでくれ!」  胸の内を全て吐き出すように――そして、すがるように訴えて来る王子は、常に堂々として見えた彼とは、別人みたいに思えた。  落ち着いた年上男性――って雰囲気は、微塵(みじん)もなくて……。  ただ、不安に(おび)える子供のように感じられた。 「リア。……こんな私をどう思う? 『情けない』と呆れるかい? 『迷惑だ』と腹を立てるかい? それとも……『気味が悪い』と嫌うだろうか――?」  ……ううん。  そんな風には思わない。  むしろ……どうしてだかわからないけど……ちょっと、ホッとした。 「たとえそうだったとしても、私は君に打ち明けたことを、後悔などしないよ。どんなにみっともなかろうと――どんなに滑稽(こっけい)だろうとも、全て私の本心だから。……君が私を変えたんだ。君のことしか見えない、哀れな男に。君のことしか考えられない、(おろ)かな男に」  王子の手から、胸から――熱い体温と、激しく脈打つ鼓動が伝わって来る。
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