〝抱き締めたい〟衝動を堪えて

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「ねえ、鳥さん。姫さ――いや、私は、どーしてここに、一人でいたんだっけ?」 「――ほ? 何を仰せでございます、姫様? 今朝、爺が姫様をお起こしするために、お部屋へ参りました時分には、すでに姫様のお姿はどちらにも見当たらず……。ですからこうして、必死に捜しておりましたのですぞ? なにゆえ、このようなところにお一人でいらっしゃったのか……爺がお聞きしたいくらいですのに」  首を右側に傾けながら、怪訝(けげん)そうに私をじーっと見る鳥さん。 「……あ……。だよねー? 私が部屋から勝手に消えたんだっけねー。あはははは」  ……はぁ。  笑ってごまかすのも、もう限界……って気がする。  ……仕方ない。  これだけ別人だって主張しても、信じてもらえないんだから……。  正しいことじゃないのは承知の上で、もう、この手を使うしか――! 「ごめんなさいっ! 嘘ついてましたっ!」  私は鳥さんに向かって、思い切り頭を下げた。 「……ほ?……嘘、ですと?」 「はいっ! さっきから滅茶苦茶なこと言ったり、テキトーに話合わせたり、はぐらかしたりしてましたけど……。実は私、何にも覚えてないんですっ!」 「……覚えていない?――何を、ですかな?」 「全部ですっ! 私自身のことも、鳥さんのことも、この世界――いえ、国のことも……とにかく何もかもですごめんなさいっ!」 「……な――」  そう言ったきり、鳥さんは黙り込んでしまった。
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