6人が本棚に入れています
本棚に追加
「セバスの前って……あれはおやすみのキス――挨拶のキスだろう? カイルの前というのは……ああ、二人だけで話したいと言われた時か。あれだって、しばしのお別れという意味の挨拶のようなものだから……。どちらとも、ただの挨拶だよ。恥ずかしがるほどのことではないだろう?」
「王子は恥ずかしくなくても、私は充分恥ずかしいんですっ!――だいたい、あっちの世界の私がいた国では、おやすみの時だろうといつだろうと、挨拶のキスなんて、相手が家族であっても普通はしないんですからねっ?」
「え?……そうなのかい?」
「そうですよっ!!」
「……そうか。では、もしかして……君にキスしたのは、私が初めて?」
「当たり前でしょっ!! どーしてくれるんですかっ、私のファーストキ――っ、……す……?」
……え……、え~……っと……。
どーしてそこで、謎の笑顔になるの……かな?
……私、一応……怒ってるんだけど……?
何故か、王子は満足げな笑みを浮かべながら、じりじりとこちらに近付いて来た。
「な、なん……っ、……なんですか? どーして笑って……こっち、来るんです……?」
「嫌だな。特に意味などないよ。……フフッ。そんなに逃げることないじゃないか」
……逃げてるワケじゃない。
逃げてるワケじゃない……けど、私は少しずつ後ずさりして、王子との距離を縮めぬよう、注意を払っていた。
……どうしてかはわからない。
ただ、私の中の何かが……王子の謎の頬笑みを見た瞬間から、
『気をつけろ。絶対何かあるはずだ』
と、しきりに注意を促していた。
最初のコメントを投稿しよう!