罠に掛かった姫

1/3
前へ
/265ページ
次へ

罠に掛かった姫

「ちょ――っ、ちょっと待って! そこで止まって!――止まってくださいってばッ!!」  じりじりと距離を詰めて来る王子に、私は両手を前に出して訴えた。 「どうして?……おかしな子だな。何をそんなに怖がっているんだい?」  余裕たっぷりに微笑を浮かべた王子は、私の訴えを聞いてくれる気はないらしい。  ゆっくりとした歩調ではあるけれど、近付くことをやめようとしない。 「こっ、怖がってなんかいませんっ!……ただ、怪しんでるだけです!」 「怪しい……って、誰のこと?」 「王子ですっ!」 「……酷いな。リア、君は本当に酷い。この私が、君に危害を加えようとしているとでも思っているのかい?」 「……き、危害を加えるとは……思ってません、けど……。でもっ、絶対、何か変なこと考えてるんでしょうっ?」 「『変なこと』? 『変なこと』って……具体的に言えばどんなこと?」 「それがわからないから――っ!……け、警戒してるんじゃないですかっ」  そうやって言葉のキャッチボールをしてる間にも。  王子はじりじりじりじり近付いて来て、更に距離を(ちぢ)めようとして来る。  私は王子のスピードに合わせながら、一歩ずつ、一歩ずつ後ずさりして……。  そんな感じだから、二人の距離は縮まるようでいて、いっこうに縮まらないのだった。 「ふぅ……。仕方ない。君がそれほどまでに嫌がるのなら……残念だが諦めよう」  ふいに、王子はそう言って立ち止まった。 「『諦めよう』?……ほーらっ、やっぱり! やっぱり、何か変なことしようとしてたんでしょうっ?」  あー、よかった。警戒しといて。  私は内心ホッとしながら、手の甲で額の汗を(ぬぐ)った。 「リア……。だから、『変なこと』ではないよ。君と、ちょっとしたゲームをしようと思っていただけなんだ」 「へっ?……ゲーム?」 「そう、ゲーム。――ゲームは好きかい?」 「えっ?……そりゃ、まあ……嫌いじゃあない、ですけど……。あ。でも、ゲームの種類にもよりますね」 「種類? たとえばどんなゲーム?」 「ん~……。そーですねぇ……」  改めて訊かれると、とっさには出て来ないもんだなぁ。
/265ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加