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罠に掛かった姫
「ちょ――っ、ちょっと待って! そこで止まって!――止まってくださいってばッ!!」
じりじりと距離を詰めて来る王子に、私は両手を前に出して訴えた。
「どうして?……おかしな子だな。何をそんなに怖がっているんだい?」
余裕たっぷりに微笑を浮かべた王子は、私の訴えを聞いてくれる気はないらしい。
ゆっくりとした歩調ではあるけれど、近付くことをやめようとしない。
「こっ、怖がってなんかいませんっ!……ただ、怪しんでるだけです!」
「怪しい……って、誰のこと?」
「王子ですっ!」
「……酷いな。リア、君は本当に酷い。この私が、君に危害を加えようとしているとでも思っているのかい?」
「……き、危害を加えるとは……思ってません、けど……。でもっ、絶対、何か変なこと考えてるんでしょうっ?」
「『変なこと』? 『変なこと』って……具体的に言えばどんなこと?」
「それがわからないから――っ!……け、警戒してるんじゃないですかっ」
そうやって言葉のキャッチボールをしてる間にも。
王子はじりじりじりじり近付いて来て、更に距離を縮めようとして来る。
私は王子のスピードに合わせながら、一歩ずつ、一歩ずつ後ずさりして……。
そんな感じだから、二人の距離は縮まるようでいて、いっこうに縮まらないのだった。
「ふぅ……。仕方ない。君がそれほどまでに嫌がるのなら……残念だが諦めよう」
ふいに、王子はそう言って立ち止まった。
「『諦めよう』?……ほーらっ、やっぱり! やっぱり、何か変なことしようとしてたんでしょうっ?」
あー、よかった。警戒しといて。
私は内心ホッとしながら、手の甲で額の汗を拭った。
「リア……。だから、『変なこと』ではないよ。君と、ちょっとしたゲームをしようと思っていただけなんだ」
「へっ?……ゲーム?」
「そう、ゲーム。――ゲームは好きかい?」
「えっ?……そりゃ、まあ……嫌いじゃあない、ですけど……。あ。でも、ゲームの種類にもよりますね」
「種類? たとえばどんなゲーム?」
「ん~……。そーですねぇ……」
改めて訊かれると、とっさには出て来ないもんだなぁ。
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