『帰らないで』が言えなくて

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『帰らないで』が言えなくて

 少しずつ迫って来る王子の顔に耐え切れず、私は大声で降参の意を表した。 「ご、ごめんなさいっ! 知った風なこと言っちゃってごめんなさいぃいっ! ホントは怖いですっ! 王子が何するかわからなくて、今もすっごく不安ですっ! だから……っ、だから変なことしないでくださいっ! お願いしますっ、お願いしますぅううーーーーーっ!!」  ……ああ……。  めっ……ちゃ屈辱っ!  ギュッと瞼を閉じ、思いっきり顔を背けながら。  私は完全な敗北感を味わっていた。  ……そう、敗北。  悔しいけど――めちゃめちゃ悔しいけど、認めざるを得ない。  だって、現に私は……こうやって王子に手首を掴まれ、腰を抱かれてるだけの状態から、どうにかして逃れようって、さっきからめいっぱい頑張ってるのに。  未だ、王子の片方の腕を解くことすら出来ずにいるんだから。  王子が言うように、男の人に本気出されたら、女ってこんなにも無力なんだって、嫌ってくらい思い知らされてるもん……。 「大丈夫だよ、リア。そこまで激しく拒絶しなくても。嫌がられていることがわかっていて尚、強引に迫れるほど……私の心は丈夫に出来てはいないから」 「……え?」  ――『そこまで激しく拒絶しなくても』――?  そうっと目を開けて王子を窺うと、私の左手は王子の(あご)辺りをがっしりと掴み、ありったけの力を込めて、顔から遠ざけようとしていた。
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