『帰らないで』が言えなくて

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「リア、永遠の別れというわけではない。……お願いだ。そんな顔しないでおくれ。決心が鈍ってしまうよ」  ……だったら、帰らなきゃいいじゃないですか。  そう言いそうになるのを、必死に抑え込む。  だって、そんなのただの我儘(わがまま)だ。  王子には王子の都合があって……生活があって、お務めがあるんだもん。  『寂しいから』なんて勝手な言い分が、通用するワケないじゃない。 「リア……」  王子の両腕が、柔らかく私を包み込む。  頬に当たる王子の胸は、とてもたくましく、温かくて……。  そのまま背中に手を回して、ギュッと抱きついて……泣いてしまいたかった。  そう出来たら、どんなにいいだろう。  でも、私にはまだ……そんなことする権利はない。  自分の気持ちがちゃんと整理出来るまでは、軽々しいことしちゃいけないって……そんな気がしたんだ。  だから、抱き返すことは出来なかった。  やせ我慢して、じっとしていることしか出来なかった。  それなのに。  こんな中途半端(ちゅうとはんぱ)な私を抱き締めて、王子は切々と、思いの(たけ)を伝えてくれる。 「次に会えた時には、君の心が誰にあるか……明らかになっていることを願うよ。そしてそれが、確実に私であることを……祈らずにはいられない」 「王子……」 「どんなに離れていようと、私はいつでも君のことを想っている。君の声を、軽やかに揺れる髪を、まぶしい笑顔を、しなやかな肢体(したい)を……幾度も思い描き、恋い慕うだろう。……リア。私が欲しいのは君だけだ。君さえ側にいてくれたなら、私はこの先、どんなことがあろうとも乗り越えて行ける。……愛している。愛している――!……リア。私を救うことが出来る、ただ一人のひと――」  ……え……と……。  別れを前にして、気持ちが高ぶってるのかな?  いつも以上に情熱的ってゆーか、熱に浮かされてるとしか思えないような、恥ずかしいセリフばっかりで……。  ……どーしよー……。  心臓の音が、頭にまで響いて来てる。  息苦しくて……顔が熱くて、脳が沸騰(ふっとう)しそう……。
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