〝抱き締めたい〟衝動を堪えて

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 私は恐る恐る顔を上げ、鳥さんの様子を窺った。 「と――、鳥……さん?」  鳥さんはふるふると体を震わせ、口(と言うよりクチバシ)を大きくカパーっと開けて、固まっていた。  たぶん、ショックのあまり、言葉を失っている……んだと思う。  ……だよね。  いきなり、よく知った人が記憶喪失になってたら、誰だってそんな風になっちゃうよ。  十年前、記憶を失っちゃった私を、両親や友人達は、ものすごく心配したと思うし……。  それがわかってて、自分を記憶喪失ってことにしちゃうのは、すごく抵抗がある。  ……でも。  私はこの世界のこと、何も知らないし、『姫様』のことだって、知るワケないんだから……。  今の私には、こうするより他に……この状況を打開する方法、思い浮かばないんだ。  ……ごめんね、鳥さん。  私、いつまでここにいることになるかわからないし、帰る方法すら思いつかない状態だけど……。  もし、帰れることになっても、姫様捜索、手伝うから!  絶対――ここにいる間は、出来る限りのことはするからね?  だから今は……今だけはごめんなさいっ!!  「……姫、様……。そんな……。そんな、またしてもそのような……。何故……何故姫様ばかりが、そのような不運に見舞われなければならぬのでございましょう? 爺は……爺は悲しゅうございますぞぉ~~~」  鳥さんはがくりという風に膝(?)をつき、さめざめと泣き出してしまった。  ……ってか、鳥って泣くの? 涙流してるように見えるんだけど……。  やっぱ、私の世界の鳥と、ここの鳥とじゃ……体のしくみとゆーか、構造とゆーか……全然違うのかな? 「姫様……。あぁ、おいたわしや姫様……。いったい姫様に何が……何が起こったのでございますか、神よ~~~?」  そう言うと、鳥さんはとても大きな――樹齢何百以上はありそうな大きな木を仰ぎ見た。
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