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記憶が戻らないと言うと、何だか、すごく大変なことになったんじゃないかとか、苦労したんじゃないかとかって、思われてしまいそうだけど。
実は、全然そんなことはなくて。
……あ。
でも、ある程度大きくなってから、こんなことが起こったんだとしたら……それはもう、大変だったかも知れないな。
積み重ねて来た膨大な記憶があるだろうし。それが一気になくなっちゃったとしたら、やっぱり、ものすごく苦労したんじゃないかな。
運のいいことに、私は子供だった。
小学校に上がる前の、小さな子供だったから……そこまで、困ったことにはならなかったんだと思う。
幸い、箸の持ち方とか服の着方とか、乳幼児の記憶までが、なくなったってわけじゃなかったし。
……まあ、仲良かったはずの友達や、生まれてからずっと一緒だった両親のこと――大切な思い出までが、全く記憶にないっていうのは、とても悲しいことだけど。
忘れてしまったなら、また好きになればいいし。
……それまで好きだった人達なんだもん。好きになれないはずがないしね。
それまでの大切な思い出が消えちゃったっていうなら、またこの先、たくさん作っていけばいいだけのこと。
私は、最初のうちは戸惑いもしたんだろうけど、両親と晃人いわく、すぐ慣れたらしい。
すぐに皆と元通り……なのかどうかはわからないけど、仲良くはなれた。
お父さんもお母さんも大好きだし、晃人も大好きだし、近所の人達も、学校の友達も、みんな好きだ。
だから、何の問題もない。
何の問題も……ないんだ、けど――……。
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