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近づいてくるひょっとこ面は濃いグレーの小袖を纏い、その襟からは黒のハイネックがのぞいている。
肩にかけただけの深緑の襟巻きは風でひらりと揺れ、頭には緑の帯のカンカン帽。そして足元は緑の紐の黒いブーツといった装いだ。
身の丈は血河よりも3寸程高く、がっしりとした筋肉質な体つきである。
「ムサシちゃん、リクドーくん。シンデレラの魔法が解ける時間だ」
ひょっとこ面は苦しそうに蹲る狐面と天狗面の頭をよしよしと優しく撫でる。
そんな面達の様子を伺いながら、血河は「何者だ?」という問いかけをするべく口を開きかけたが──、
「ひょっとこさんの心の声が聞こえません! センジンです!」
亀代が鋭く叫ぶので血河は気を引き締める。
かつてセンジン達が忠誠を誓っていた女王は老衰死した。役目を終え、特異過ぎる存在として取り残されてしまった彼らに徐晴は言った。
「センジン、人間の世で確かに生きづらいネ。でも無問題、一つだけ方法があるアルヨ──人間になればいい」
その方法とは、自分以外のセンジンの心の臓を喰らうことであった……。
人間となる為に他のセンジンを探して旅を続ける血河。武器に身を変じるヒトアラズの少年・八裂を相棒とし、人の心の声が聞こえるヒトアラズの少女・亀代と負の波動の影響を受けた利発な烏・ヤタを仲間にしている。
人の心の声を聞くという亀代だが、何故だかセンジンの心の声は聞こえない。血河は自分以外のセンジンについて名は知っているが顔を全くといっていいほど知らないという状況であるから、その識別を少女に一任していた。
「お前が6番目のセンジン・幽鬼だな。この俺にお前の心の臓を差し出せ」
凄みながら言うと、ひょっとこ面は頭を撫でる手を止めて血河の方へと顔を向ける。
「お前さん、今までいくつ心の臓を喰らった?」
投げかけられた問いに、血河は少し間を置いて答える。
「……残骸、薄幸、業病、殺生の四つだ」
「…………そうか、四つかぁ。ん〜、困ったぁ。いやはや、どうしたもんかねぇ〜」
ひょっとこ面は深いため息をつきながら俯くと、ぶつぶつと何やら呟いている。だがやがて考えがまとまったのか再び頭を上げると、きっぱりと言い放つ。
「それじゃあ、とりあえず殴り合いでもやっとくか」
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