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とりあえず殴り合い、その間の抜けた言い方に血河は眉を寄せる。
「とりあえずとは随分な言い方だな。これから始めるのは殴り合いではなく殺し合い──っ？！」
気がつくと、充分な距離をとっていたはずのひょっとこ面が目の前に迫っていて息を飲む。
一気に詰められた間合いに動揺して反応出来ないでいると、ひょっとこ面はノーモーションで胸の中心へ正拳突きを叩き込んできた。
「まずは一発目」
ひょっとこ面の一撃、その威力は凄まじく後ろへと吹き飛ぶ。
飛ばされながら両手にもつ双刀を一本の槍へと変え、その穂先を地面へと突き刺して血河は転倒を免れる。
「ぐっ、ふっ……やって、くれたなっ！！」
まるで外側から心の臓をぐちゃぐちゃにされたような痛みを感じる。呼吸は苦しいが、血河は直ぐに駆け出す。……槍をそのまま置いて。
冷徹な雰囲気を醸し出しているが、実はプライドが高く負けん気が強い血河。それ故に拳でやられたのなら拳でやり返す、たとえ相手が肉弾戦を得手としていても自分がそれを上回り勝ってやると意地になる。
今度はこっちから距離を詰め、素早く右ストレートを繰り出すが……。
「そんなにおれへ近づいていいのか？ 危ないよぉ」
ひょっとこ面は左手で血河の腕を容易く払いのける。力に自信があった血河は、こうも軽くあしらわれてしまったことに驚愕する。だが驚くのはまだこれからだ。
だんっ！！ と耳をつんざくような大きな音がする。ひょっとこ面が足で地面を強く踏みつけた音なのだと血河が理解したと同時、鳩尾に猛烈な衝撃を受ける。
「ニ発目」
血河のがら空きになった胴体へ、肘を打ち込むひょっとこ面。
黄水を吐きながら後ろへと倒れる血河。だがここで倒れては駄目だと足に力を入れ踏みとどまる。ぎゅっと唇を噛み締め、拳が駄目ならと右足を蹴り上げた。しかしそれも簡単に抱え込まれてしまう。
「三発目」
ひょっとこ面が血河の軸足へローキックをきめると、ばきっ！ と何かがへし折れる音がした。
「つっ……！ ハチ──」
骨が折れた、このままでは負ける。それを察した血河が相棒の名を叫ぶも……。
「次で四発、これで終いだ」
抱えていた右足を解放してひょっとこ面は呟くと、体を半回転させて軽く膝を曲げる。そしてよろめく血河へ肩で突き上げるような体当たりをお見舞いした。
さすがにこれは耐えきれなかった血河は地面へ仰向けに倒れる。そんな彼を見下ろして、ひょっとこ面は言う。
「全部で四発。お前さんが喰って殺した兄弟たちの分だ」
それを聞いて血河は口を開いたが、ふっと意識が遠くなり気を失った。
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