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血河は、目を覚ます。すると天井が見えて、自分が寝かされているのだと気づく。
傍らに目をやると、手を合わせ目を閉じた亀代が血河の名を繰り返しながら祈りを捧げている。
「チカさまの目をどうか覚まして下さい。お願いします、チカさまを助けて下さい」
自分が不老不死であることを少女も知っているはずなのに、そんなことを願うなんてと血河は内心面白くなる。
しかし、だ。自分はセンジン・幽鬼と対して負けたはずだ。それなのに何故心の臓を奪われることなく、こうやってどこぞの部屋で寝ているのか? 不思議に思い視線だけで部屋を見回していると、亀代の肩に乗るヤタと目が合った。
「チカ! 目ぇ覚めたかコンチキショーのバカヤローっめ!!」
「……ああ、今な」
ヤタが派手に囀り、血河はをゆっくりと痛む上体起こす。
亀代は起き上がる男の姿にほっと安堵の表情を浮かべた後、手の甲で目元を拭き口を開く。
「ハチくん、チカさまが目を覚ましたよ!」
血河に背を見せ、部屋の出入り口へ体を向けて立つ八裂。その両腕は刃へと変わっていて、害敵から血河達を守っているように見えた。
「ハチ、もう大丈夫だ。腕の変化を解いていいぞ」
「チカさまっ!」
義手の調子を確かめながら血河がいつも通り素っ気なく言うと、亀代が青い顔をして叫ぶ。
何だ、と問いかける前に振り返った八裂がずかずかと目の前まで迫って来た。少年の眉と目は吊り上がっており、怒っているのだと分かる。
しかし何故怒っているのか? 考える血河の胸ぐらを八裂は変化を解いた両手で掴む。
「お前はアホかー!! オレらにもっと別に言うことあるっしょ?!」
特に思い当たる節がなく血河が何も言えないでいると、八裂は手を放して項垂れた。
「お前さぁ〜まずは“無茶してごめんなさい”で、その次は“心配してくれてありがとう”だろ」
それを聞いて血河は“不死”の自分が謝罪や感謝を口にするのはおかしいと思ったが、女王の笑顔が脳裡に浮かんだ。
「……すまない、迷惑をかけた。それと、ありがとう」
血河は素直にそう言葉を紡ぐと、鼻をずるずると啜る八裂の頭を左手で撫でる。
「……今度、オレのこと手放して戦ったら、ぜってー許さんからな」
「ああ、分かった」
「ハチくんの言う通りですよ、チカさま。どうかご自身を大切になさって下さいませ」
「そうだな、そうしよう」
「はぁ〜、ほんとーに分かってやがんのかよこの唐変木め!」
「分かっている、もう二度としない」
自惚れではあるが、もしかしたら自分は仲間達の“心の支え”になれているのではないかと血河は考える。勿論女王のように上手くはいかないが。
だがそれはそれとして……あともう少しだけ女王とのひとときを夢で見ていたかったと彼は密かに思うのだった。
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