参・山中の屋敷

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 血河(チカ)に頭を撫でられていた八裂(ハチレツ)が顔を上げる。少年は気恥ずかしそうに充血した目を逸らすと、ぶっきらぼうに言う。 「頭撫でんなし、はずいから」  それに従い手を下ろした血河は、八裂と亀代(カメヨ)、そしてヤタに状況の説明を求める。 「俺はセンジンの幽鬼(ユウキ)と思われる個体と戦闘し、気を失った。それなのに心の臓を抉られていない上に、この部屋に寝かされている。これはどういうことだ?」  ふたりと一羽は顔を見合わせると、まずは亀代が口火を切る。 「ええと、その……倒れたチカさまをひょっとこさんが担いでこの山の中のお屋敷へと運んで下さいました」  山の中の屋敷、この場所こそが幽鬼の住処なのだろう。何故そんな所へ生きたまま、拘束もされずに連れてこられたのだろうか?  そして血河は寝ござの上に寝かされており、体には夜着(布団)がかけられていた。それがあまりに親切且つ丁寧な対応過ぎて気味が悪い。 「……一体やつは何を考えてるんだ」  ひょっとこ面の姿を思い浮かべながら血河が呟くと、八裂が肩を竦める。 「それは知んね。てかひょっとこあんま喋んねーし、狐と天狗はオレらを警戒(けーかい)してるみたいだし。ね、亀ちん」 「はい。ひょっとこさんの心の声は聞こえませんが、狐さんと天狗さんはひょっとこさんの指示に従うようです」  つまりそれはひょっとこ面が命令すれば、あの神使のふたりは再びこちらを襲ってくるということだ。 「……俺達は今後どう行動すればいい? ヤタ、何か案はあるか?」  血河の問いかけにヤタはこきっと首を傾げる。 「直ぐに殺さずわざわざ根城へと連れて来た。それはお前のことを殺したくない理由が何かあるのかもな。となれば、相手は話し合いに応じるかもしれねぇ。ここから逃げ出すのに強行突破は無理だ、やつらを刺激せず何とか言いくるめて外に出るしかねぇだろう」  ひょっとこ面の強さは本物であり、狐面と天狗面もそれぞれ手強い相手であった。一斉にかかってこられたら次こそ血河は心の臓を抉られて喰われるだろう。 「……話し合いが成立するとも思えないが、今はそれしか手はないか」  血河が小さくため息をついた時、唐突に亀代が襖を指差す。 「襖の向こう、誰かいます」  血河と八裂は目配せし、いざという場合に備える。しかし。 「敵意はありません。これは、子ども──」  亀代の言葉の途中で襖が勢いよく開け放たれる。そこにいたのは4、5歳程のふたりの幼子。ふたりは真っ白の小袖を着用し、顔にはそれぞれ猿面と犬面をつけている。  そしてふたりは、 「「あ! 、おきたんだね!」」  同時にそう言った。
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