参・山中の屋敷

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 廊下へと出ると、そこが離れの部屋なのだと分かった。  猿面と犬面を先頭に渡り廊下を進みながら周りの風景を観察すると、屋敷を囲む劣化した塀の向こうには木々が生い茂っている。  渡り廊下の次は長い廊下で、その左右には部屋がある。すると今度は回廊が見えてきて、賑やかな声がする。  中庭で遊ぶ複数の面の(わらべ)達、そしてそんな子どもらを見守るこれまた面の大人が数人。体の線からその大人は女性だと分かる。 「屋敷もめちゃ広いけど、人もけっこーいるじゃん。何人位いる感じ?」  八裂が案内役に問うと、ふたりは指を折りながら答える。 「えーと……いち、にー、さん、あれ? さんのつぎはなにかしら?」 「ユウキくんとー、ぼくとー、ムサシおねえちゃんとー、リクドーおにいちゃんとー」  この様子では正確な人数を把握するのは難しいだろうと一行が思い始めた時、向かいから野菜籠を両腕に抱えた鬼面の男とよぼよぼと歩く(おうな)面の老女がやって来る。 「今この屋敷に住んでいるのは家主のユウキくん、そしてその他の老若男女を合わせて47人ですよ」  そう言った男は戦場で見かけた神使達と同じ、山伏のような姿だ。 「六合(リクゴウ)六月(ムツキ)。ユウキくんが茶の間(居間)で待っているからお客様を早くご案内するんだよ」 「「はーい、ロッカクおにいちゃん!」」  猿面少女・六合と犬面少年・六月は鬼面青年・六角(ロッカク)に元気よく返事をする。 「それでは失礼します。また後で」  六角は血河達に頭を下げ、老女と共に横を通り抜けて行った。 「こっちこっち、こっちだよー」 「まいごになったらだめだよー」  六合と六月の後を再び追いながらヤタは呟く。 「47人か、結構いるな。だがどういう集まりだ? おれ様達に対して敵意はないみてぇだが」 「はい、若干の警戒心はありますが危害を加えてやろうなどとは思っていないみたいです」  頷きながら亀代が言えば、血河は自分をいとも簡単に気絶させたひょっと面の姿を思い出しながら苦々しい顔をする。  血河は自身のことを“強い”と自負していた。  試作品(プロトタイプ)である自分は他のセンジン達と違い、風や人を操るなどという特別な異能(チカラ)はない。  だがしかし、自分は過酷な戦場の最前線で戦い、その後もずっと武を磨いてきた。誰にも負けることなどない……と思っていたのに。  次、幽鬼と戦いになった時は勝てるだろうか? そんならしくないことを血河が考えていると──。 「ついたよ!」 「ここだよ!」  六合と六月は大きな襖の前で足を止める。襖の向こうはがやがやと沢山の人の声がしていて、血河は気を引き締める。 「ハチ」 「ああ、わかってる」  最悪なパターンを想定し、それに対応するべく思考を巡らせる一行。そんな緊張感など尻目に子ども達は襖をすぱーんっと開ける。  すると……。 「もう本当に無理。絶対に嫌われた。気絶させるつもりなんてなかったんだもん、ちょっと勢い余っちゃっただけなんだもん。……はぁ〜、嫌われた。辛い、立ち直れない〜」  茶の間には野太いおっさんのめそめそした声が悲しげに響いていた。  
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