3人が本棚に入れています
本棚に追加
幽鬼は顎髭を擦り、溜め息と一緒に煙を吐き出す。
「混乱したよ、何でこの兄弟達が敵方にいるのか。こいつらは博士くんに切り捨てられた兄弟達なのか、はたまたそれとは違うのか。違うとなったら、新たにセンジンを造っている者がいる。だがきっと、あれが出来るのは博士くんだけだ。ならば博士くんは生きている? ……なんて、無い頭を必死に捻ってみたがお手上げだ」
「……業病のやつなら“興味深い”と言って思考を重ねるだろうな」
「ははっ、違いない。いかにも業病らしいなぁ」
へらりと笑う幽鬼に血河は苛立つ。
兄弟思いというなら“お前が業病を殺したせいで”なんて言って襲いかかってきてくれた方が血河には都合がいいのだ。
まるで戦意を感じさせない幽鬼はゆったりとした動きでタバコの灰を灰皿根付へと落とす。
「博士くんが生きている、考えてはみたがさすがにそれはありえないだろうと思っていたんだが……お前さんもその存在を感じていたなら、本当に生きているんだろう」
血河が旅の中で徐晴の生死について疑問を抱いたのは、狭貫國と境での出来事が原因だ。このふたつの地で起こった騒動に彼の狂科学者が関わった可能性が非常に高いのだ。
「徐晴は人間だったはずだ、年月の経過と共に加齢していた」
「だがそんな博士くんの最期に立ち会った者は誰もいない」
本当に生きているのかもしれない。だが生きているとして何故争いの火種を撒く様な真似をするのか。それも血河には分からない……が。
「おれはお前さんがここに来て、博士くんが生きているかもしれないとほとんど確信した。そしてお前さんの話を聞いて断定したよ」
「……何故俺が来たことで“ほとんど確信した”になるんだ?」
あまりに奇妙なことを言うので訊ねると、幽鬼は目をまん丸にして口からぽろりとタバコを落とす。
「え? いや、だってこれは博士くんがお前さんにしている嫌がらせだろう?」
「嫌がらせ? 理解出来ないな」
「あ、れ? もしかして兄弟、気がついてないのかい? お前さん、博士くんに嫌われていたんだぜ」
嫌われていた、血河は首を傾げて考えるがぴんとこない。
「俺も徐晴のことは好きか嫌いかで言ったら嫌いだったが、殆どどうでもいいと思っていた。特段やつの機嫌を損ねるようなことをした覚えはないのだが?」
「えぇ、天然かいお前さん。しただろう、機嫌を損ねること。それもド級のさぁ……」
「記憶にない。はぐらかさずにはっきりと言え」
幽鬼はう〜んと唸りながらタバコを拾い上げてから言う。
「女王ちゃんとお前さんが親しくしているのが、博士くんは気に入らなかったのさ」
最初のコメントを投稿しよう!