陸・夜襲

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 血河より一足先に屋敷へと戻った八裂(ハチレツ)亀代(カメヨ)、そしてヤタは再び茶の間(広間)へと通されていた。 「いだだっ! ちょ、まじ髪引っ張んのやめろし! ちゅるちゅるキューティクルがはがれちゃうっしょ! 仕返しだー、こちょこちょこちょ〜♪」 「きゃははは!」  相棒(血河)に屋敷へ戻っていろと言われむすっとしていた八裂だったが、今は小さな子ども達と楽しく遊んでいる。 「全力で楽しみすぎだろアンチキショーめ。あれか? ハチ公とガキンチョの知能レベルが同じだからか??」  八裂の様子を眺めながら呆れた様に溜め息をつくヤタは亀代の膝の上へ乗っている。  若干失礼な物言いをしたが、亀代からはなんの返答もない。これはおかしいぞとヤタが少女を見上げると、亀代は深刻な顔をしていた。 「嬢ちゃん、さっきからやっぱり変だぜ」 「えっと、その……あの、」  言い淀む亀代はきょろきょろと部屋の中を見回し何かを確認している。  これは大っぴらには出来ないことだと察したヤタが肩の方へ移動すると、亀代は小さな声で囁く。 「実は、ムサシさんとリクドーさんのことなのですが──」  その時、背後の襖が大きく開かれる。 「貴様ら、夕餉(夕食)の時間だ! 遊ぶのを即刻やめて、手を洗い食事の用意をしろ!」  大きな声で言って部屋へと入ってきたのは、六指(ムサシ)。そして彼女の後ろへは六道(リクドウ)が静かに控えている。  亀代はさっと口を閉じたのだが、六指の視線を感じ心の臓が早鐘を打つ。 「誰か客人を井戸まで案内してやってくれ」 「はーい、わたしがするぅ!」 「ぼくも〜! こっちこっちー!」  子ども達に手を引かれ、亀代達は茶の間を出た。  どうやら六指達について話そうとしていたことは気がつかれていないようだ。  通用口から外に出て、井戸に向かっていると幽鬼と血河が戻って来る。 「ユウキくん、おゆうはんだからおててをあらわないとダメなんだよ!」 「そうかいそうかい、それじゃあ皆で手を洗いに行こうかぁ」  にこにこと笑う幽鬼が加わり子ども達は更に嬉しそうにするのだが、幽鬼の背後へいる血河は今にも死にそうな顔をしていた。 「チカ、どしたん? なんかあったん?」  心配した八裂が問いかけると、黒い男は青い顔をしてか細い声で言う。 「……飯などとても食えそうにない」  血河のその言葉に八裂、亀代、ヤタは同時に頭を傾げるのだった。
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