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夕餉の席には獣の肉や魚、山で採れた野草や木の実が並んだ。
「……お前達で食っていいぞ」
血河は目の前に配膳された夕食を八裂達に押しつける。
「マ? ラッキー、食べる食べる!」
育ち盛りで殆どいつも腹を空かせている八裂はさっそく血河のお椀へと箸を伸ばすが……。
「ハチくん、チカさまのお食事ですよ。チカさまは体が大きいのでわたし達よりも沢山食べないといけません」
亀代が少々刺々しい声色で言うと、八裂は箸を引っ込めて唇を尖らせる。
「えー、でもそのチカがいいって言ってんだからよくね?」
八裂相手では話にならないと瞬時に判断し、亀代は血河の方に声をかける。
「チカさま、一体どうされたのですか? お腹の具合が悪いのですか?」
すると血河は嫁達と楽しげに食事をしている幽鬼をちらりと見てから、ぼそりと漏らす。
「……自分のやっていることを初めて客観的に見て参っているだけだ。俺は食わずとも死なん、遠慮せずお前達で分け合え」
それ以上は口を閉ざして何も言わない血河を亀代は不思議に思う。
血河が人間であるならば、心の声を聞いて何に迷い、悩んでいるかが分かるのに……亀代はそんなことを思い、ハッと気がつく。
他者の心の声を聞くなんて卑怯なことだと頭を左右に振ったが、こうも思った。血河は既に心の臓を四つも喰らっており、人間へと近づいている──はずである。しかし亀代には未だに血河の心の声はほんの少しも聞こえないでいた。
食事の後、血河一行は離れの一室を与えられた。人数分の寝ござが運ばれ、直ぐに横になる。
一日の内に色んな出来事が起こった上、旅の疲れもあり三人と一羽はぐっすりと眠りこける。
草木も眠る丑三つ時、血河達が眠る部屋の外で動く人影が複数。その数は28。
雲から顔を出した月に照らされたのは、面をつけた山伏姿風の男女達。幽鬼の嫁衆の中では戦闘を担当する者達だ。
狐面と天狗面、すなわち六指と六道が襖に耳を当てて中の様子を確かめる。すると寝息が聞こえてきたので、中の目標が熟睡しているのが分かる。
六指がハンドサインを送ると、戦闘員達は錫杖の中から刃を引き抜いてそれぞれの持ち場へと着く。
「……行くぞ、準備はいいな」
「ああ、いつでもいいよ。姉さんに合わせるのが弟の役目だ」
「ふふっ、かわいいことを言う。流石は私の弟だ」
姉弟は潜めた声で言葉を交わす。そして六指は勢いよく襖を開け放ち、草鞋のまま部屋へと押し入る。
「その心の臓、貰い受け──がっ!!」
威勢よく叫んで飛び込んでいった六指であったが、腹に強烈な蹴りを不意打ちでくらって後ろにいた弟共々後ろへと吹き飛ぶ。
「寝込みを襲うとは、いやらしい奴らだな。ないとは思うが、これは幽鬼の指示か?」
部屋の中から悠々と出て来た血河は尻餅をついている双子を見下ろして冷たい声で言った。
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