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カンカン帽に片手を添えて歩み寄ってくる幽鬼。彼が纏う空気には怒気が帯びていた。
「おれは嫁さん達のやりたいことを阻止するようなモラ夫じゃあないが……これは流石に独断専行が過ぎるってものさ。おれは人間にはならない、兄弟とも戦わない。これは絶対だ」
不機嫌そうな低い声に嫁達は萎縮して錫杖を下ろすが、その中で六指と六道だけは得物を血河に向けたままだ。
「ユウキくんがどう言おうと我等は引かない。ここだけは絶対に譲れん! 貴様ら何をしている、奮い立てっ!!」
六指が一喝するも、一体誰に従うべきなのかと嫁達の間で動揺が広がる。
「ムサシちゃんにリクドーくん、皆が困っているからやめなさい。……お前さん達の気持ちはよく分かる。おれの為を思ってくれているのも嬉しい。だけど──おれは兄弟達を殺してまで人間になりたいとは思わないんだよ」
先ほどまでの張り詰めていた雰囲気が全くの嘘の様に幽鬼はへにゃりと悲しげに笑う。
その痛々しい笑顔に六指と六道は顔を見合わせて気まずそうな顔をする。
「六指、六道、これまでだ。ユウキくんの意に反することをし、その上悲しませるのは俺達の本意ではない」
双子よりも随分と年上の鬼面の青年・六角が促すと、双子はやがて同時に得物を下ろした。
「すみません、ユウキくん。ストック分の御神水を無断使用しました。これは水の管理を任されている俺の失態です、どうか罰するならこの俺だけを」
深々と頭を下げる六角。そんな彼の肩を幽鬼はぽんぽんと優しく叩く。
「相変わらずロッカクくんは真面目だねぇ。いいよいいよ、この件は不問にする。……ちゃんと話していなかったおれが悪いのさ」
意味深なことを言って幽鬼はゆっくりと血河へと近づいていく。
八裂は敵意を迸らせて身構えたが、血河にくしゃくしゃと乱暴に頭を撫でられて首をぐらんぐらんと左右に揺らす。
「明日の朝餉の席で話そうと思っていたが、おれ達と兄弟達は暫く手を組むことにした」
血河の隣へと立った幽鬼から唐突に発せられたそれに八裂が素っ頓狂な声を上げた。
「はぁ? 手を組む、どゆこと??」
それは嫁達も同じだったようで、騒然とする。
ぱんぱんと二度手を打って場を鎮めた幽鬼はきりっと顔を引き締めた。
「お前さんらも知っての通り、敵方に妙な連中が混ざり始めただろう。その対処に当たるのに兄弟の力が必要というわけだ。いいか、つまりこれは──」
嫁達はごくりと生唾を飲み、八裂は“妙な連中”とは一体なんなのかと困惑と緊張を抱く──のだが……。
「そう、おれと血河お兄様の初めての兄弟共同作業★ はぁ〜どきどき! がんばるぅ!!」
頬を染め、恥ずかしそうに体をくねらせるおっさんというイタ過ぎる存在を目の当たりにして誰も何も言うことは出来なかった。
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