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激動の夜が明け、朝となる。
幽鬼は有言実行とばかりに、嫁衆が全員揃う朝餉の席で血河と手を組むことを表明した。
「血河お兄様は合戦のプロだ。なんたっていくつもの戦場で幾人もの兵士を率いて先陣を切ってたんだもん! うわっ……おれのお兄様、強すぎ……?」
「単身で突出していたことの方が遥かに多い。あと俺はお前の兄ではない」
うっとりとした表情の幽鬼と能面顔の血河。正反対のふたりの態度に手を組むだなんて本当に大丈夫なのだろうかと当人達以外は不安になる。
「それじゃあ兄弟達への細かい説明と打ち合わせを──うん、ロッカクくん任せるよ」
幽鬼は居心地悪そうな表情をしている双子をちらりと見た後、ふたりの向かいに座る六角に声をかける。
「え? あ、はい。分かりました」
いつもならこういう時は嫁衆のリーダーである六指と六道が指名されるので、六角は驚きながらも自身の箱膳を持って血河達の近くへと座る。
鬼面と宝冠を外した六角は、青灰色の髪をショートウルフにした温顔の青年であった。
「自己紹介をしていませんでしたね、俺は六角と申します。……皆さんはユウキくんからどこまで話を聞き及んでいらっしゃるでしょうか? 肉の化け物のことは……?」
語尾につれて声を潜めるのは、この茶の間へ幼い子ども達がいるからだ。
「それについては俺が現物を見た上、夜半の騒動後に連れ達へは説明している」
八裂達がこくりと頷くと、六角も頷き返して説明を続ける。
「俺達は毎日必ず巳刻から午刻近くまでの間、いつもと同じ荒野で敵方と衝突します。皆さんにはこの戦闘に参加して頂きます」
「分かった。……幽鬼はああ言ったが、俺に戦の指揮は期待するな。俺がやるのはジャンク共を捕らえることだけだ」
岩牢の中で蠢いていた未完成の醜い存在、そしてその心の臓を泣きながら喰らう幽鬼の姿を思い出して血河は眉間に皺を寄せる。
「分かりました。……では俺達の中から数名助手をおつけ致しましょうか?」
直ぐに断ろうとしたが、どれだけの数が出てくるのは分からない。返事に窮していると、わっと黄色い声が上がる。
「はいはーい! それならアタシに任せて! だってユウキくんのお兄ちゃん、超イケメンなんだもん!」
「あ、ずるいですぅ! わたしだって、ユウキくんのお兄さんのお手伝いしたいですぅ!」
「兄弟なのに全然似てないわね。兄はこんなにもイケメンだっていうのに…。ふふ、気に入ったわ」
嫁衆女子組は血河を前にしてきゃぴきゃぴと姦しい。
「こらーそこのかしまし三人娘、聞こえてるぞぉ。おれだってイケメンだろー、それに夫の前で堂々と浮気するのはメッ!」
ぷくぅーと両頬を膨らませる幽鬼の姿に、嫁衆は和やかに笑い合うのだった。
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