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朝餉を終えて戦闘担当の嫁達が戦準備を始めた。
宝冠を頭に巻いてぎゅっと結び、錫杖を点検していると大きな水瓶が部屋の中へと運ばれてくる。
中の水を柄杓で掬い口にした者達は体を軽く動かしたりして調子を整えるような様子を見せた後、それぞれ面を装着する。
「御神水と面です、どうぞお使い下さい」
六角は湯呑みに入った水、そして猫面とおたふく面の2枚を血河と八裂に差し出してきた。
「へー、それがおっさんの血を混ぜた身体強化薬かぁ。飲めば誰でも簡単に強い力を発揮出来るって話だが……短所もあるみてぇだなぁ」
八裂の頭に乗っかるヤタは、双子の姉弟と最初に交戦した時のことを思い出していた。ふたりは戦いの最中、突如膝から崩れ落ちて苦しそうにしていたのだ。
「はい、その通りです。ユウキくんの血で力が発揮出来るのは約3時間で、その制限時間を過ぎると──四半刻ほどめっちゃ筋肉痛になります」
あまりにも端的でまるで冗談の様に聞こえるが、もし戦の真っ最中にタイムリミットを迎えてしまったらと考えると笑い事ではない。敵の目の前で無力化してしまうということなのだから……。
「俺にその水は不要だ。飲んだとしても俺には効果がないだろうからな」
センジンの異能はセンジンには効かない。故に血河が御神水の恩恵に預かれることはないのだ。
「オレもパースッ! そーいうわけわかんないブツはキメないよーにしてるから!」
「面も結構だ。普段から身につけ慣れていないものは戦闘に支障をきたす恐れがある」
六角は暫し黙って何かを考えるような仕草を見せたが、やがてこくりと頷く。
「分かりました。では直に出発しますので、もう少々お待ちください」
そう言って青年は自分の準備に向かったので、血河はその隙に亀代を見て声を潜める。
「……カメヨ、戦の混乱に乗じて背中から刺されるのも面倒だ。あいつらが俺に向ける敵意、いや殺意はどうなっている?」
亀代は部屋をぐるりと見回し、耳を澄ませた。聞こえてくる心の声たちを整理して注げる。
「基本的に皆さんは幽鬼さまの考えに従うそうなので、幽鬼さまが手を組むと言った以上はこちらを襲ってくることはありません。……ですが、その、ひとつだけ、懸念がありまして、」
ちらちらと少女が視線を送る先、そこへは六指と六道の姿がある。
「……ええと、その、あのおふたりは未だ迷っているみたいです。幽鬼さまに従うか、それとも逆らいチカさまの心の臓を狙うかと、」
「なるほど、あのふたりには油断をしてはならないということだな」
そう言って血河が気を引き締めたその時、
「さぁて、そろそろ行くかぁ皆」
どこか気の抜けるような幽鬼の声がして、白い衣と面の神使達は歩きだす。ひょっとこ面の幽鬼の背中を追って。
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