壱・神使

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 一揆、それは権力者の圧政に対し農民などが団結し暴動を起こすことである。  八裂と亀代が改めて合戦の様子を注視すると、戦が正規軍同士の衝突でないことが分かった。  片や刀や槍を手にして具足(甲冑)を纏っているのに対して、もう片方は(すき)(くわ)などの農具を持ち蓑で体を覆っている。 「人間(ヒト)の歴史は戦争の歴史だ。太古の昔から人間(ヒト)人間(ヒト)と争わずはいられない」  悲しんでいるのか、呆れているのか。嘆息を漏らすその姿も様になっているのは身の丈6尺(181cm)あまりある色男。名は血河(チカ)。  烏の濡れ羽色の髪を高い位置から一つに結わえ、黒曜石のような瞳は鋭い三白眼。  顔はかなり整っており、つり上がった柳眉にスッと通った鼻筋、切れ長の涼しい目元に小さな口。そして白い肌。  装束は黒の小袖を着流しているだけのシンプルなものであるが、"美丈夫"というのは彼の為の言葉だ。  見た目年齢は20代半ばから後半位なのだが……この男に年齢という概念は関係ない。 「行くぞ、休憩はしまいだ。俺達の目的は合戦見物ではない」  一行が(サカイ)から加宜國(カガノクニ)へと訪れたのには目的がある。それは血河のを達成する為に重要なことであるかもしれないことだ。  先を急ぎたい血河であったが、お供達は争いに見入って不可解そうな声を出す。 「てかやば、同じ位の兵数なのに農民のがめっちゃ押してんだけど」 「そう、ですね。正規軍と比べたら武具の質も劣り、鍛練も積んでいないはずなのに、」  一揆衆の勢いは凄まじく、その猛攻でじりじりと正規の軍を後退させている。 「……んん〜〜?? 一揆衆の中にがいやがるぜコンチキショー!」  変なの、が気になり血河は逸らしていた視線を再び戦場へと向ける。ヤタの言う通り、一揆衆の中に数人程度白い衣の人物が混ざっていた。見る限り、農民達を指揮しているのはその白い者らだ。 「……シンシ、サマ? 農民の皆様は白い装束の方々をそう思っていらっしゃいます。それと──」  一揆衆の方に体を向け、何かに集中するように目を伏せた亀代が呟く。距離もあり、戦の音で農民達の声など聞こえるはずないが少女はを確かに聞き取る。 「シンシサマ? ……カッカー! 神の使いの神使(シンシ)様ってか!」  亀代の言葉を遮る様にヤタが鳴き、血河は“神”という言葉に目の色を変えた──その時だった。 「貴様ら、そこで何をしている!」  後方から聞こえてきた声に振り返ると、そこには顔を面で覆った白い装束の人物が立っていた。
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