漆・責任

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 人間(ヒト)の形になり損ねた、5尺(150cm)程の赤黒い肉塊の化け物が血河へと飛びかかる。  血河は薙刀でそれを難なく横に払い斬り、真っ二つにする。  どさりと地面に落ちたジャンクはぎゃおぎゃおと悲鳴を上げていて、それが途絶えることはない。そう、こんなにまでなっても生きているのだ。  それどころかふたつに分けられた体は蠢きながら近づき、その断面を合わせることで修復を図ろうとしている。 「……生き汚い、これが俺か」  必死に、そして無様に足掻くジャンクの様子に己の姿を重ねて血河は人間(ヒト)になりたいと改めて思う。  ぼんやりと化け物を眺めていると空から声が降ってくる。 「おい、気ぃ抜いてんじゃねぇぞコンチキショーめ!」  我に返るが時すでに遅く、3体のジャンクが血河の左肩、右腕、左足へとしがみつきその牙を突き立てる。 「くっ、ハチッ!」  相棒の名を呼ぶと、右手の薙刀がしゅるしゅる解けて左手に短刀が出現する。  握り締めたそれをまずは右腕の義手へ齧りついているジャンクに突き刺す。 「うぎゃっ! うー、うー!」  ジャンクは悲鳴を上げて痛がりはするが、決して腕からは離れない。  何度も何度も何度も刀の抜き差しを繰り返して血飛沫を散らすが、命は絶えず傷は修復していく。 「ははっ! なるほど、確かにこれは面倒だ!」  珍しく声を出して笑う血河。殺しても殺しても死なない相手など、もう笑うことしか出来ないでいた。 「笑ってんじゃねぇ、とち狂ったかコノヤローめっ!!」  ヤタが嘴で肉塊を啄むも、そんな些細な攻撃は全く効いていない。 「おい、化け物共が黒い男の動きをとめているぞ! 今だ、殺せ!!」  槍や刀を持った敵兵達が一斉に血河へと駆け寄っていく。  血河は親指の腹で短刀の柄を二度叩くと、刀は短筒(ハンドガン)へと変わる。  向かってくる男達に発砲するが、纏わりつくジャンク達のせいで狙いが定まらず弾が当たることはない。  一度串刺しにされて倒れ、相手が油断した所で反撃をしよう……なんて不老不死でしか成し得ない作戦を血河が頭の中へ浮かべたその時だった。 「……っ、うぉおぉおぉおっ!!」  低く、喉から絞り出したような声がしたかと思うと、兵達が血を撒き散らしてばたばたと倒れていく──錫杖に仕込んだ刃を振るった幽鬼の手によって。
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