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一行の前に現れた人物は、側頭部の両サイドを猫の耳の様に立てた白い宝冠で頭を覆い、顔には狐面をつけている。
そして鈴懸、袴、手甲、脚絆、身に着けているそのどれもが眩しい位に白い。手には錫杖を持ち、その姿はまるで山伏を彷彿させた。
戦場で一揆衆を指揮する神使と呼ばれる存在、その内の一人が接触してきたことに血河達は僅かばかり驚き言葉を失う。
「どうした? 何故何も答えない? 答えられないということは……貴様ら、間諜だな。ふんっ、為政者は姑息なマネをするものだ」
面越しの声はくぐもっていて少々聞き取りにくいが、血河達に好意的でないことは雰囲気で察せられた。
狐面の接近に気がついていながらもヤタに言葉を遮られてしまっていた亀代が慌てて口を開く。
「ええと、わ、わたし達はただの旅の者です! い、戦をしていたのでつい足を止めてしまっただけで、その、あの、あなた達が思うような怪しげな者ではありません!」
たどたどしくもきっぱりと身の潔白を証明した──つもりであったが……。
「……あなた達だと?」
そう返され、亀代はしまったと思うがもう遅い。
狐面の隣に聳え立つ巨木。それがかさかさと音を立てたかと思うと、上から天狗面をつけた者が降りてきた。例によって服装は白装束で錫杖を持っている。
「我等が二人であることに気がつくとは、貴様らやはりただ者ではないな。……言え、何者だ。この争いの地で怪しげなことをする者を我等は見逃したりはしないぞ」
錫杖をしゃんっと鳴らしながら前に突き出す狐面に、我に返った血河は言う。
「お前達は神使と呼ばれているらしいな。ならばお前の主は先人様か? 答えろ」
境で世話になった職人から得た情報、加宜國のとある村々には不老不死伝説と共に先人様という神が昔から語り継がれているという。
「貴様、こちらの問いかけには答えずにおいて逆に問いかけてくるなど図々しいにも程があるぞ! 何様のつもりだ!」
ぎゃんっと吠える狐面を横目に、血河は亀代に目をやる。すると少女はこくんと頷いてみせた。
「どうやら図星のようだな。ならば今直ぐにその先人様とやらの元へ俺達を案内しろ。俺達は戦に興味はない、用があるのは神を名乗る者だけだ」
傲慢な態度を崩さない黒い男に狐面は怒りで体を震わせる。
「いけしゃあしゃあと自分の意見ばかり繰り返すとは……我等を侮るのも大概にしろ!! 誰がお前らのような不遜な輩を先人様の元へと行かせるものか! 少し痛い目を見て自らの傲りを自戒せよ! 行くぞっ!」
狐面と天狗面は同時に地面を蹴って血河へと向かい駆け出した。
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