壱・神使

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 迫りくるふたりを見つめ、血河はため息をつく。 「……はぁ。俺は穏便に済ませたいのに、何故かいつも厄介なことになる」 「んぇ?! 自覚ない感じなん? やば〜、どー考えてもお前の態度がデカすぎるのが原因っしょ??」  八裂の言葉に同意するように頷きつつ、亀代とヤタはいそいそと血河達から離れる。 「お前さ、まじでその上から目線で話すのやめな。そんなだから友だちもできなくて、オレと出会うまでぼっちだったんだよ」 「……できなかったわけじゃない、必要ないから作っていないだけだ」 「強がりで草。そーいうのいいから、悲しくなるから。ぴえん」 「強がりじゃない」  そんなことをくっちゃべっていると、直ぐそこまで狐面と天狗面はやって来ていた。 「この期に及んで戯言を談じるなど貴様らは我等をどこまで虚仮(こけ)にするつもりだ! 許さん!!」  面をつけたふたりは飛び上がると、錫杖を両手で持ち血河と八裂へと振り下ろす。その動作はぴったりと揃っていて、見ていて気持ちがいいほどだ。  ガチンッと金属同士がぶつかり合う音が響く。 「お前達に許してもらう必要はない。逆に俺がお前達を許してやるからさっさと先人様とやらの元へ案内しろ」  血河は黒い右腕で狐面の錫杖を受け止めていた。男の右腕は境で優秀な職人に作らせた義手である。  そして左手はいつのまにか黒い太刀(たち)を握っており、八裂の姿はなくなっている。金髪の少年に狙いを絞っていた天狗面は、突如として消えた標的(ターゲット)に動揺していたが──、 「だ!」  初めて声を発した天狗面。それを聞いて狐面は天狗面と共に後ろへと飛び退き、血河と距離を開けた。  "ヒトアラズ”、その者は人間(ヒト)(あら)ず。ヒト未満の存在(化け物)だ。  500人の1人の割合で生まれるとされるその者らは、ある者はとてつもない怪力を、ある者は毒の体を、ある者は人の心の声を聞き、そしてある者は体を武器へと変じる。  無力な人間(ヒト)らはその者らの力を恐れ、“ヒトアラズ”と蔑称し、石を投げ、追い立て、迫害した。時には命さえ奪うこともあった。  ヒトアラズは、望んでそのように生まれてきたわけではない。たまたま人とは違う異能(チカラ)を持って生まれてしまっただけの“人間”だというのに……。  天狗面と狐面は互いに顔を見合わせる。 「金髪の男の子が刀になったね。あっちの女の子も何か異能(チカラ)も持っていそうだし……ここからは慎重にいこう」 「そうか、お前がそう言うのならばそうしよう。これよりは慢心せず気を引き締めて行くぞ」  そして錫杖をがちゃがちゃと弄り始めたかと思うと、(シャフト)の中からきらりと光る刃を抜き出した。
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