壱・神使

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「チカさま、気をつけて下さい。仕込刀です」 「そうか。だが問題ない」  亀代の忠告に軽く頷く血河に天狗面が突撃してくる。繰り出される刃を難なく太刀で受けた血河であったが、違和感を覚える。異様に重いのだ。  備仲國(ビッチュウノクニ)で戦った怪力三竦(ミショウ)に及ばぬものの、天狗面の一撃は力強い。背丈は八裂よりも少し高い程度で、体つきも華奢であるのに一体どこからその力が湧き出ているのか血河は不思議でたまらない。  もしやヒトアラズか……そんな考えが頭を過った時、ヤタがけたたましく鳴く。 「おい、上だ!!」  はっとして顔を上げると、そこには前のめり気味の天狗面の背中を踏み台にして飛び上がった狐面の姿があった。 「天誅!」  天狗面を押し返し、狐面に対応しなければ……そう思うのだが、どれだけ押しても天狗面は足に根が生えたように動かない。  血河は一瞬だけ考えて、手にする刀の柄を左手の薬指で素早く二度叩く。すると太刀はふっと消え、天狗面はつんのめる。その隙を見逃すことなく血河は天狗面の腹へ蹴りを入れる。 「ぐっ!」  天狗面は呻いて尻もちをつく。間髪を容れず再び刀を出現させた血河であったが、時既に遅し。 「貴様っ!! 私のかわいい弟を足蹴にするなど、万死に値する!!」  そんな怒声ともに降ってきた刃は、血河の体を左から右へと袈裟斬りにする。  血河は両膝をつき、地面へ突っ伏す。狐面はそれを尻目に直ぐ様天狗面へと駆け寄る。 「大丈夫か?! ああ、かわいそうに……。だがあの不埒者にはこの私が誅罰を与えておいたぞ」  天狗面を甲斐甲斐しく助け起こし、衣服についた土を払ってやりながら狐面は優しい声で言う。しかし。 「……い、いやいや、姉さん。僕らの役目は部外者がこの争いに巻き込まれないよう、脅して追い払うことじゃないか。それを──殺すだなんて、」  天狗面の方はドン引きしているが、狐面は全く意に介していない。 「私も最初は寸止めにして怖がらせるだけのつもりだったが、お前を傷つけた相手を生かしておく理由はない」 「え、え〜〜?? ……姉さん、まずいよこれは」  天狗面は血溜まりにたおれる血河を見た後、気まずげに続ける。 「これがにバレたら大目玉を喰らっちゃうよ?」 「誰に何を言われようと弟を傷つける者を決して許さないのが姉の役目だ。私はユウキくんなどには屈しはせん!」  そうやって何やら揉めながら言い合いを続けるふたりであったが──、 「……ユウキ? 聞いた名だ。そして先人様、か。これはもう確定だな」  地の底から響くような低い声がし、ぞっと悪寒が走る。ふたりが同時に声のした方へと顔を向けると、傷口からびゅくびゅくと血を吹き出しながら血河が立っていた。 「不老不死の化物・。その幽鬼(ユウキ)というのは俺と同じ化物だな」
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