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『8月17日と18日って、空いてる?』 柴田からそのメッセージが届いたのは7月末のこと。 予定通りならプロジェクトが終わって17日は東京に戻ることになっていたから、そう問われなくても予定をあけていた。 予定が空いていることを答えると、その日博多に来るよう誘われた。 博多に一泊して、翌日の夜、一緒に東京に戻る。そういう予定になった。 8月17日、朝一番の飛行機で福岡空港に向かった。 あの朝、柴田は同じように早朝に飛行機に乗って戻ったのだ。 あの日のことを想うと、今でも心臓がとくんと特別な鼓動を返す。 個人のワガママで出張中の柴田を困らせたくなかった。 どんなに会いたいと思っても、一緒に過ごしたいと思っても、言葉にして伝えることを自分で自分に禁じていた。 なのに、前夜の電話で美和が言葉にしなかったことを見抜いて、柴田は東京まで戻って来た。 彼に触れられるだけで自分はあんなにも安心と幸福を与えられるのだ、ということを知った。 他の誰にも与えられたことがないものを、与えてくれる。 自分の中での柴田祐太の存在があまりにも大きくなっていた。 遠くに離れて過ごしてるうちに漠然と不安を感じていたのは、そのせいだとわかった。
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