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10.
目を覚ました時、目の前で柴田の目がやさしく微笑んだ。
まだ寝てていいよ。
柴田がそっと囁く。
ずっと、起きてたの?
ぼんやりした頭で、聞く。
寝顔がかわいすぎて、見てた。
柴田の言葉に、美和は白い頬をほんのり赤く染めて、目線をはずしてうつむく。
「画像じゃなくて、ほんとに目の前で、手の届くところにいるんだな、って思ったら、しあわせ過ぎた」
柴田の指先が美和の頬にそっと触れた。
静かなさざ波の音がずっと聞こえている。
もう、朝なのかな……。
時間感覚がわからなくなって、美和はくるりと向きを変えて、仄明るい光が差し込む窓の方を向いた。
大きな窓の向こうは延々と穏やかな波が続いていた。
夜から朝に変わる直前の、薄明かり。
藍から紫、桃色に繋がる空のグラデーションを映し出す海の色を眺める。
日が落ちて暗くなってから見た海は、漆黒の重い塊のように見えた。
もしも落ちたら、絶対に、再び上がってくることも、誰かに見つけてもらえることもなさそうな、すべてを飲み込みそうな、恐怖心を感じる深い暗闇。
今は、それがなんとも言えないやさしい色に変わり、やわらかな波が、ゆっくりと穏やかにたゆたう。
柴田が長い腕で美和の背中を包み込むように抱き寄せた。
美和は彼の手に自分の手を絡めながら、胸の奥があたたかくなるのを心地よく感じた。
目が覚めた時に一人じゃない。
それって、とても心強くて、うれしいことだ。
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