10.

1/2
前へ
/16ページ
次へ

10.

fd9a94ce-a7dd-4673-9eb9-764cea55d422 目を覚ました時、目の前で柴田の目がやさしく微笑んだ。 まだ寝てていいよ。 柴田がそっと囁く。 ずっと、起きてたの? ぼんやりした頭で、聞く。 寝顔がかわいすぎて、見てた。 柴田の言葉に、美和は白い頬をほんのり赤く染めて、目線をはずしてうつむく。 「画像じゃなくて、ほんとに目の前で、手の届くところにいるんだな、って思ったら、しあわせ過ぎた」 柴田の指先が美和の頬にそっと触れた。 静かなさざ波の音がずっと聞こえている。 もう、朝なのかな……。 時間感覚がわからなくなって、美和はくるりと向きを変えて、仄明るい光が差し込む窓の方を向いた。 大きな窓の向こうは延々と穏やかな波が続いていた。 夜から朝に変わる直前の、薄明かり。 藍から紫、桃色に繋がる空のグラデーションを映し出す海の色を眺める。 日が落ちて暗くなってから見た海は、漆黒の重い塊のように見えた。 もしも落ちたら、絶対に、再び上がってくることも、誰かに見つけてもらえることもなさそうな、すべてを飲み込みそうな、恐怖心を感じる深い暗闇。 今は、それがなんとも言えないやさしい色に変わり、やわらかな波が、ゆっくりと穏やかにたゆたう。 1692986e-eeb2-4b0a-9468-97884eac7e4d 柴田が長い腕で美和の背中を包み込むように抱き寄せた。 美和は彼の手に自分の手を絡めながら、胸の奥があたたかくなるのを心地よく感じた。 目が覚めた時に一人じゃない。 それって、とても心強くて、うれしいことだ。 2c04e81d-1173-4253-8e28-d97511e98bf2
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加