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窓の向こうで空と海が少しずつ明るくなるのを、二人でくっつきあったまま、しばらく黙って見ていた。
日の光がより強くなり、朝焼けの色が薄れていく頃、柴田がゆっくり起き上がり、ベッドの傍らの椅子に置いた自分のボディバッグから何かを取り出して、また戻ってきた。
「美和さん、ここに座って」
ベッドの上に座り、投げ出した自分の両脚の間のシーツの上をポンポンとたたいて見せる。
「おれに背中向けて座ってね」
美和は体を起こして、言われるがままに彼に背を向けて、指定の場所に座る。
彼の膝と膝に挟まれて座る形になった。
柴田が何かごそごそ手を動かすのを、背中で感じる。
「……?」
なんだろう。
少し間があって、頭の上を通って目の前に何かが降りてきた。
キラリと小さな光を見せるそれは、一粒のダイヤモンドだった。
細い銀色の鎖に繋がれたそれは、美和の胸の上におさまった。
うつむいて、指先で触れてその存在を確かめる。
小さなダイヤモンドが一つ揺れる、シンプルなネックレスだった。
柴田が美和の首の後ろで留め具をはめる。
「これ、つけていてくれる?」
柴田は後ろからぎゅっと抱きしめて、美和の頭の上に頬を寄せて、言う。
「いつもちゃんと美和のこと想ってるってこととか、美和はおれの彼女ですってこととか、何があったら、どうやったら、いつでも誰にでもわかるようにできるかな、ってずっと考えてた。でもそれってすごく難しくて。
せめて美和さんには、そういうことを思い出してもらえるものになればと思って」
柴田は、おそるおそる美和の横顔をのぞきこんで、彼女の反応を気にした。
「なんかそういうの、重い? イヤ?」
美和は首を横に振って、肩を抱く彼の手の上に自分の掌を重ねた。
「……そんなことないよ、うれしい。大事にする」
「よかった」
心底ほっとした顔になって、柴田は肩をなでおろす。
美和は笑って、伝えた。
「ありがとう。これから、いつもつける。お守りにする」
「ホントはさ、わかりやすく、指輪がいいかなって思ったんだけど。
何がいいかよくわからないし、大きさも合わないと困るし、指輪を選ぶ時は一緒に行くのがいいかなって思って」
美和は、柴田がジュエリーショップの前でうろうろして困っている様子を想像した。
一人で行ってスマートに買ってこられるほど、柴田がその場に慣れているとは思えなかった。
そういう男性であること自体が美和には好もしく思えた。
「次は指輪にする。仕事でもっと結果出して、美和が遠慮なんかしないで、『お願い、私と結婚して』って懇願したくなるくらいになるよ」
「私が、お願いすればいいの?」
美和は目を丸くして、それから、くすくす笑った。
「じゃあこれは、プロポーズの予約ってことだね」
美和は柴田の目を見上げて、言った。
「そのうち、柴田くんに私からプロポーズすればいいんだよね」
それを聞いた柴田が、
「んー……。なんかそう言われると、プロポーズの言葉はおれが言いたいんだけどな……」
と本気で悩みだしたので、美和は吹き出して、声を上げて笑った。
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