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コンコン。ノックの音に続いて、ドアが開いた。 「ただいま!」 柴田が明るい顔で入ってきた。 実際にここに来るのは週に3日程度だが、彼にとってはもう自宅同然のようだ。 「おかえりー」 美和が振り返って、盛り付けの終わった皿を2枚持った。 「ちょうど準備できたところ」 「やったー。腹減ったー」 柴田はカバンを置いて、バスルームで手を洗い、すぐにキッチンに戻ってきた。 「なに運ぶ?」 「じゃあ、お味噌汁」 「OKー」 二人で配膳を終えて、席につく。 美和が自分用に購入した小さなテーブルは、二人分の皿を並べていくとまったく隙間がなくなってしまう。 「どうかした?」 柴田が胡坐をかいて床に座って、思案顔の美和を見た。 「なんか二人だとこのテーブルじゃ小さいかなと思って」 「たしかにギチギチだね」 柴田は笑って同意した。 「もう少し大きいサイズにしようかな。 ……あ、おなかすいてるのにおあずけでごめん」 「いただきます!」 差し出された箸を手にとってから、柴田は両手を合わせた。 「うまっ」 米麹につけていた鶏もも肉のやわらかさに、柴田がすぐに反応した。 「これ、すげーうまい。やばい」 「よかったー」 簡単につくったものでも喜んでくれるのでうれしくなる。 柴田の笑顔を見るたびに胸に灯るあたたかな光を、幸せの感覚ってこういうことなんだろう、と思う。
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