7.

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7.

頬にも、耳にも、額にも、胸にも、柴田の唇が触れた。何度も、何度も。 美和も、柴田の唇、頬、耳、首、肩、体中に唇を押しあてながら、柴田の体に両手を回し、足をからめてしがみついた。 夢中でいながらも、このまま全身が溶けて実体としてなくなったら、苦しくなったりすることもないのに、と思ったりした。 あお向けになった柴田の胸の上にそっと耳を置く。 軽快で規則的な鼓動を聞く。 柴田の腕が美和の背中をやさしく抱いた。 もう一方の手が、美和の頭に触れる。 3週間ぶりに帰ってきた、柴田の手の感触。 こうしてもらうと、落ち着く。 安心する。 猛烈な眠気に襲われ、美和は思わずつぶやく。 「ダメ」 「……ダメ? 何が?」 瞼が重くなり、目を強引にふさごうとしてくる。 「眠りたくない……」 柴田が笑った。 「寝ていいよ」 「やだー」 美和は駄々をこねるようにつぶやき、何かに(あらが)うように身じろぎした。 「こんな時に寝たくない」 全身の力が抜けていきそうになる。 柴田の体に両手を回して、しがみつく。 「まだ寝ない……」 「……美和?」 美和の手から力が抜け、彼女の体の重さが変わるのを感じた。 静かに呼吸する息の音が聞こえる。 普段は年の差を意識するのか大人ぶった態度なのに、時々小さな女の子のような言動や表情を見せる。 柴田は、美和を起こさないようにこらえながら笑って、そっと頭をなでる。 改めて、離れたくない、と思う。 美和を好きになる男は、他にもいる。 過去に見た、美和が食事に誘われるシーンを思い出すと、胸がチリチリと焼け付くように痛む。 絶対に、誰にも渡したくない。触らせたくない。 美和は口に出して言葉にしないが、だから感じることもある。 美和は、本当に言いたいことを言っていない。 昨日の電話での表情を見たら、そのままにしておきたくなかった。 やっぱり来てよかった。 直接会って、顔を見て、触れ合ってみないとわからないことだってある。 5時前にはここを出なくてはならない。 目が覚めた時にここにいなかったら、かえって傷つくかもしれない。 何があったら、不安にさせずにいられるんだろう。
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