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壁の外へ出たいダークファンタジー?
TO.外の世界に存在するかもしれない誰か
初めてご挨拶させていただきます、加護野琴里と申します。突然ですがお手紙にて失礼いたします。
今回このお手紙を受け取られました貴方さまに、是非ともお願いしたいことがございます。私を助けてください。
どうか私をこの狭く窮屈な世界から、高く青い空の広がる外の大きな世界へとお導きください。
いつまでも同じ領域にいては、私に変化は訪れません。
私は周囲を高く分厚い壁に取り囲まれ、身動きが取れないのです。
ルーティンワークを繰り返す日々に、飽きあきしています、変わりたい。
壁の中の人々は、この生活を当たり前と、寧ろ平和な毎日と捉えています。
しかし私は飛び出したい、この壁の向こう側の世界へ。
恐怖がないと言えば嘘になります。
しかし一生をこの壁の中で過ごす方が、余程怖いのです。
だからどうか私を迎えに来てください、何卒よろしくお願いします。
FROM.ことり
△▼△▼
加護野琴里殿
いつもいつも、私は一体何を読まされているのでしょう。貴女の母です。
貴女はその場所の一体何に、それほどの不満を持つのでしょう。外の世界?
貴女はその外の世界で傷つき苦しみ、今そちらにいるのです。
社会という名の外の世界に出てしまえば、貴女は再び荒波に揉まれ、流され、そして打ちのめされることでしょう。
これまでも貴女は幾度となく、社会から逃げ出すための自傷行為を計りました。
両手・両足の指では数え切れぬほどの回数を救急車で運ばれ、そちらに収容されています。壁の中こそ安全で平和です。
壁の高さや枚数は、貴女の病状に比例します。
ドンドン壁が高くなるのであれば、それは悪化している表れです。
医師や看護師の指示に従い、服薬を忘れぬようお気をつけください。
仮に貴女が目の前の壁を壊せても、その周囲には何重にも強固な壁が建設されています。抜け出すことは困難でしょう。
ご希望に沿いたい気持ちもございますが、一時帰宅の許可すら下りません。
それが現実ですから諦めなさい。
今は安静に、そしてごゆるりとお休みください。 母
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