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「あれ、あの味たまんねえ程好き!! 」
幼なじみの孝司は、和菓子屋の前を通る度に訴えかけてくる。そんなに好きなら買えばいいのにと思いながら、長々とその食べ物について、或いは食べ方について熱弁を繰り返す。はいはいと流せばいいものを、つい、いつもの流れでさも初めて聞いたかのように続きを聞いてしまう真帆。
「最近は、いつ食べたの? 」
真帆の問に孝司は一瞬考えたような素振りをすると小さな声で答えた。
「そうだな……。 八ヶ月前かな…… 」
その言葉を聞いて真帆は驚いた。店の前を通る度に美味しさを聞いていたので呆気に取られてしまった。あれだけ熱く語るからには、てっきり毎日食べているのだと信じこんでいた。
「そんなに美味しいの? そのお菓子? 」
真帆は孝司の顔を覗き込む。すると、孝司は歩きを止めてうつむいた。いつもの明るい馬鹿騒ぎする孝司と違う様子に、真帆は何か聞いてはいけないものを聞いてしまったような気がした。
「読みたい本の発売日なの。また明日ね 」
うつむいたままの孝司に手を振って逃げるように家とは反対の道に駆け出した。
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